2年2ヵ月ぶり、7枚目となるオリジナルアルバム『I』をリリースするJUJUさん。なかでも現在公開中の映画『祈りの幕が下りる時』の主題歌となっているシングル『東京』は、親子愛を描いた映画の感動とともに観客の涙を誘い、名バラードと早くも注目を集めている。ミモレ初登場の今回は、そんな新作に込めた思いと、歌と音楽、そしてファッションへの愛について、存分に語ってもらった。

JUJU 2004年に『光の中へ』でデビュー、2006年『奇跡を望むなら...』でブレイク。以降『明日がくるなら』『やさしさで溢れるように』『PLAY BACK』などヒット曲多数。カヴァーライヴ「ジュジュ苑」をはじめとする精力的なライブ活動に加え、ファッション誌での連載など多岐に活躍。幅広い層から絶大な支持を集める。


情報過多な時代、だからこそ
自分で選ぶことを大切にしたい


「愛」しさ、「哀」しみ、「藍」(ブルー)な気持ち。7枚目のオリジナルアルバム『I』でJUJUさんが歌うのは、誰もが一度は経験するさまざまな“アイ”と、自身の現在を映す“自分を大切にしたい”という思いだ。

「これまでの人生、嬉しいことも嫌なこともいろいろあったけど、どれも自分で選んできたことだと思いたいし、そのうちのどれが欠けても今の自分はないなって思うんですよね。今って何でも便利な時代だからこそ、多すぎる情報に流されそうになることもある。そんななかでも私は私で、これからもすべて自分で選び取っていきたいというか。
なぜ今そう思うのかというと、実は2003年に契約をさせてもらったアルバムの枚数が7枚。私にとっては7枚目までこられたという一つの記念となるこのタイミングに、今一度本来の自分に立ち戻って歌いたい、という気持ちは大きかったですね」

 

模索の時期と運命の一曲が
歌う意味さえ変えてくれた


「いろいろあった」の言葉から、ブレイク時のエピソードを思い起こす人も多いはず。2004年にデビューするも2枚のシングルでは結果を出せず、契約打ち切りの危機に。しかし2006年、最後のチャンスとして発表した3rdシングル『奇跡を望むなら...』が有線から火がつき、スマッシュヒットに。JUJUさん自身も、この曲との出逢いとそれまでの模索の期間がこれまでの人生で一番の転機だったと振り返る。

「『奇跡を〜』までの2年間は、まるでゴールのないマラソンでもしているようでした。毎週出されるお題に合わせて曲を作っては送り、作ってはまた送る、の繰り返し。リリースの予定がないまま、ただ制作だけを続けるのは本当に辛かったですね。最後のほうなんか契約切ってほしいと思ってたくらい(笑)。最後のシングルに『奇跡を〜』が選ばれた時も、当時の私はバラードを歌うことは全然頭になかったので“ウソでしょ?!”って感じでした。

でも結果的にはあの曲のおかげでその後アルバムも出せたし、今もこうして歌うことができる。聴いてくれた皆さんには本当に感謝しかないし、あの2年間とあの曲がなかったら今の私はないですね」

苦労の末に巡り会った初めてのヒット曲は、自身にとっての“歌うことの意義”まで変えたそうだ。

「デビューしてからもずっと、自分の歌を誰かが聴いてくれているっていう実感がなくて、ひとり暗闇に向かって歌っているようだったんですね。それが『奇跡を〜』で初めて、自分の歌を聞いた人の声というものをいただけたんです。すごく救われたし、誰かが聴いてくれているとわかったうえで歌えることがこんなにも幸せなのかと。
それからは、私が歌いたいからじゃなく、聴いてくれる方に喜んでもらえるなら、と思えるようになった。そうしたら歌いたくないジャンルも一切なくなりました。“自分にバラードは違う”というのも、結局は自分で決めつけていただけ。この時だけは、自分の意見ほどしょうもないものはないな、と思いましたね(笑)」

 

大切な人と過ごす時間は
思うよりずっと少ないから
 

好きが高じて本まで出しているほどの靴マニア。この日のサンローランも素敵!

以降、たくさんの人に愛される歌を数多く生み出してきた。映画やドラマの主題歌、テーマソングに選ばれたものも多く、今回のシングル『東京』もその一つだ。現在公開中の映画『祈りの幕が下りる時』のテーマは“親子の愛”。その主題歌として書き下ろされたこの『東京』という曲に、JUJUさんはどんなメッセージを込めたのだろう。

「大切な人との時間って、すごく限られていると思うんです。とくに親のような近い存在だと、いることが当たり前すぎて気付けないからなおさら。言わなきゃいけないことを言えるチャンスは、大人になるほど少なくなるんですよね。
でも、たとえ言えずに後悔が残ったとしても、その気持ちは自分をより前へ向かわせてくれると思う。あの時の自分はバカだった、そう思えればそれは自分を知るきっかけになったということだし、そこからまた頑張ろうという気にさせてくれる。この曲では、そういうやるせない気持ちを歌っていて。大切な人と会えなくなっても“天国で笑っていてくれたらいいな”とか、“あの人が幸せでいてくれるなら”とか、そういう風に思えたらいいですよね」

 

好きなものを自由に楽しめばいい
自己肯定できるのが大人の証
 

取材当日は、オールブラックのコーディネートで登場。「子どもの頃は親の用意する服がイヤで、姉のお下がりも早く欲しいものと要らないものとで選り好みしてた(笑)」という根っからの洋服好きで、10代半ばにはすでに自分のスタイルを確立していたとか。そんな彼女が考える、年齢とファッションの相関関係とは。

「年齢を重ねるにつれ似合うものが分からなくなる、という経験は私にもあるけど、あれもこれも歳をとったから着られない、ということではないと思うんですよね。高価なものを身に付けても背伸びした感じにならないから、むしろ似合うものは増えていくはずだし。ショートパンツもビリビリのTシャツも、自分が好きなら何を着たっていいんじゃないかなあ。自己肯定できるのが大人ですから。
以前、自分を裏切るのは自分だけだ、と言われたことがあって。これ以上無理だと限界を決めたり、できないと思うのって自分への裏切りなんですよね。そもそも、自分を信じてあげられるのは自分しかいないんだし。信じることをやめない限り、着られない服はないと思いますね」

JUJUさんのトレードマークといえばその美脚。思わず見惚れてしまいました。


長い下積みの時期を乗りこえチャンスを実現させたJUJUさん。そのブレイクからもすでに12年が経つ。最後に、好きなことを長く続ける秘訣、そして今後の展望を訊くと、歌、そして周囲への愛に満ちた言葉で締めくくってくれた。

「私はもともとそういうタイプなんじゃないかな。食べ物でもお酒でも、好きなものなら毎日ずっと同じで大丈夫。それに、もしもなかったら人生とっくに破綻してる、というくらいには、私は歌と音楽に救われているので。『私には空気みたいなもので…』とか、そんなかっこいいものじゃないですよ? 今まで辛いことがあると“ああ、これでまた一曲歌える歌が増えた”と肯定する、その作業を繰り返してきた人生なんです。だから歌がないと本気で困る。悲しみを受け入れる理由がなくなっちゃうから(笑)。なのでこれからの希望は、今のチームで一日でも長く仕事をし続けること。一日でも長く、歌い続けることですね」

 

<新譜情報>

歌手として長年真っすぐに育んできた“歌うこと”への愛(I)に、小田和正、平井堅、小林武史ら、超大物から気鋭のクリエイターまで錚々たる顔ぶれが集結。シングル『東京』は、ヒットメイカー・蔦谷好位置によるプロデュース。さらにNHKドラマ10「この声をきみに」主題歌『いいわけ』、日本テレビ系ドラマ「レンタル救世主」主題歌『believe believe』なども含む全13曲を収録。4月からはこのアルバム『I』を引っさげ、全44公演10万人超動員の大規模なホールツアーを開催。

 

<映画紹介>
大ヒット公開中! JUJUさんが主題歌を歌う
『祈りの幕が下りる時』

東京都葛飾区の古びたアパートの一室で、死後何日か経過した女性の遺体が発見される。絞殺された被害者は、滋賀県在住の押谷道子。アパートの住人である越川睦夫もまた、行方が分からなくなっていた。警視庁捜査一課の松宮が調べを進めるうち、捜査線上に日本橋署刑事の加賀(阿部)とも接点がある舞台演出家の浅居博美が浮かび上がるが……。

 

原作:東野圭吾「祈りの幕が下りる時」(講談社文庫) 監督:福澤克雄
出演:阿部寛 松嶋菜々子
©2018 映画「祈りの幕が下りる時」製作委員会


撮影/横山順子 取材・文/山崎恵 
構成/川端里恵(編集部)