掃除や家事を一手に引き受けてくれるハウスキーパー(家事代行)。
人に家に来てもらって、仕事を指示するなんて本当にできるの? と思っている人がいるかもしれません。でも、その心理的なハードルを乗り越えてみたら、「こんなに便利だったなんて!」と驚くこと間違いなし!
株式会社タスカジ代表の和田幸子さん自身がそのことを強く実感。新卒でずっと働いていた富士通を退社し、経験豊富なハウスキーパーと依頼者をマッチングさせる家事シェアリングシステム「タスカジ」を立ち上げました。
家事のアウトソージングの実際をご紹介します。

和田幸子(株式会社タスカジ代表取締役) 1975年生まれ。1999年に横浜国立大学経営学部を卒業し富士通株式会社に入社。システムエンジニアとしてキャリアを積み、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)に社費留学 。その後は新規事業の立ち上げなどにもに携わる。 2013年10月に富士通株式会社を退職し、翌年7月「タスカジ」をオープン。女性の活躍推進を目的としたイベント「mushing up」のほか、女性起業家のセミナーの登壇や講演も多数。


仕事と子育て、家事で疲弊。
家事代行を頼んでみたところ――。


「ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)』が放映された時、主演の新垣結衣さんがハウスキーパーをしていたことで、『タスカジ』にも依頼したいという人が増えました。もともと興味があった人があのドラマを見て、『普通のサラリーマン家庭でも頼んでいいんだ!』と思っていただけたのかもしれません」

そう話すのは、株式会社タスカジ代表取締役の和田幸子さん。「タスカジ」とは、家事の仕事をしたい人(タスカジさん)と、家事を依頼したい個人とをつなぐWeb上のマッチングプラットフォームサービス。家事代行業者を介さない個人同士の契約なので、価格がリーズナブルというのが最大の特徴。登録されているタスカジさんを検索すると、掃除、整理収納、洗濯、料理、作り置き、買い物、ペットケア(室内)、チャイルドケア(保護者同席)というように請け負える作業カテゴリが明記されており、初めて利用する人も、依頼内容がイメージしやすくなっています。

また、利用した人のレビュー(評価)を参考にすれば、「せっかくお金を払って依頼したのに、全然仕事ができない人だった」という失敗も避けられるようになっています。こうした仕組みづくりの随所には、和田さん自身の経験が生かされています。

フィリピン人のタスカジさんに家事を任せ、家族で食事を楽しむ依頼者。英語でのやりとりが主だが、「子どもの教育になる」「自分の英会話スキルのプラスになる」と逆に付加価値になっているとのこと

和田さんが初めて家事代行を依頼しようと思ったのは、育児休暇から復職した直後のこと。共働きで、和田さんは富士通でシステムエンジニアとして着実にキャリアを築いていましたが、実は家事が大の苦手。それでも仕事と家事の両立を目指し、夫と共に乗り切ろうとしましたが、長くは続きませんでした。

「育休復帰後、最初の1カ月は作り置きや冷凍ものの本を買って作っていましたが、あっという間に体調を壊しました。少しでも暇があれば寝ていたいと思うほど、本当に大変でした」

そこで家事代行業者を利用することを思いつき、各社のサイトを見たところ、利用料の高さに驚いた和田さん。そんな時、通っていた英会話スクールの先生に、「外国では個人同士で交渉して来てもらうから、安くお願いできるのが当たり前」と教えられました。日本でも、在住外国人が英語で会話できるフィリピン人ハウスキーパーと直接交渉し、リーズナブルな価格で来てもらうのが主流だと聞いて、さらなる驚きがあったといいます。

和田さんは「とりあえず挑戦してみよう」の精神で、英会話の先生に教えてもらったウェブサイトに募集告知をしました。約10人から応募があり、土日を使って全員とじっくり面接したすえ、勢いがあって印象の良かったベトナム人女性と契約をしました。

「でも1回で辞められてしまい、がっかりしました。うちはお金持ちでも何でもなく、彼女のイメージと違っていたからかもしれません。また、彼女は家事代行の仕事が初めてだったのですが、この時、私も初めてでしたし、ハウスキーパー経験者にお願いすべきだったと反省しました」
 

家事代行が広まらないと、女性は活躍できない!
「私がやるしかない」と起業を決意


依頼する側もされる側も双方いろんな希望や条件があり、人間同士の相性もあります。和田さんは試行錯誤ののちに、信頼できるフィリピン人のハウスキーパーと出会うことができましたが、この時に「もっと簡単なマッチングの仕組みがないと、誰もが気軽に利用できるようにはならない」と痛感しました。そこで和田さんは「私がやるしかない!」と奮起。ひらめいてから1週間で結論を出し、富士通を退社して起業を決意したのです。

タスカジさんが3時間で作りあげた作り置き料理の数々。材料を用意し、好みを伝えておけば手際よく作ってくれるそう

「このサービスの形を思いついた時、絶対にニーズがあるはずだし、家事をアウトソーシングしないとキャリア形成なんてできないと思いました。『こういう仕組みを気軽に使える世の中にならないと、女性の活躍なんて絶対に無理!』という誰にぶつけていいのか分からないような怒りに似た感情がこみ上げ、自分で起業して世の中を変えたいと強く思ったんです」

システムエンジニアだった和田さんにとって、ゼロベースで新たな仕組みを構築するのは大好きなことの一つ。新規事業の立ち上げにも加わっていたこともあり、それなりのノウハウもありました。金銭的な問題にしても、「あらかじめ引き際の目安を定めておけば大丈夫」と冷静に判断。

自宅の最寄り駅から検索し、そこまで来てくれるタスカジさんを表示。入会金や登録料は不要で、タスカジさんが設定している料金(1時間1500円〜)と、依頼種類(「定期」もしくは「スポット」)により、依頼金額が変動する仕組み

「起業に失敗しても、それはそれで得られるものもあるし、年齢的にも2年後なら転職もできるはず。もし転職できなくてもコンビニのバイトで働けばいい。2年くらいの生活費なら自分の貯金で賄えると考えたんです」

タスカジさんは登録にあたり、身分証明書のコピー提出、面接・説明会への参加、3時間の実践テストが必要となっています

「タスカジ」のサービスを開始したのは和田さんが39歳、2014年のこと。当初は思うように登録者が増えず、苦労の連続でしたが、3年半後の現在、登録者数はタスカジさんが約800人、依頼者が約23,000人と順調に推移しているそう。また、当初は和田さんが想定していなかった「作り置き」や「整理収納」というサービスも開始。依頼人の家に訪問したタスカジさんが、3時間で手際よく10品以上もの料理を作る姿がメディアに取り上げられ、さらなる注目を集めるようになりました。

後編では、和田さん自身のキャリア形成への考え方や、夫との関係の築き方などをお聞きしていきます。3月19日公開予定です。


撮影/横山翔平(t.cube) 取材・文/吉川明子 構成/川端里恵(編集部)