シーンとしがちな場面で相手をクスッと笑わせるようなことが上手く言える人、飲み会の誘いなどを感じ悪くなくサラッと断れる人……皆さんのまわりには、こんなふうに「気の利いたひと言」が言える人がいるのではないでしょうか。
でも、「あの人はもともと頭の回転が速いから、いいコメントが言えるんだ……」と諦めの気持ちを抱いてはいませんか? 「自分には会話のセンスがないからどうしようもない」と。
そんなことはありません! センスがなくても、訓練次第で誰でも気の利いたひと言が言えるようになるのです。
今回は、話し方講師・渡辺由佳さんの著書『気の利いた「ひと言」辞典』より、まわりから一目置かれる「ひと言」を生み出すために身につけたい力やテクニックをご紹介します。
 

1 常識力 ―社会人として最低限の情報は集めておこう―


相手の話に対して何か気の利いたひと言を言おうとしても、ある程度常識がないと言葉が出てこないものです。
話し方教室の生徒さんの話なのですが、ある後輩に「最近、円高が進んでいるよね」と言ったところ、「円高だと海外旅行が損なんでしたっけ?」と返され、「この人にこの話をしてもダメだ」と思ったそうです。
今は、テレビのニュースや新聞、雑誌、そして外にいてもスマートフォンを見られるなど、いつどこにいても情報を仕入れることができます。気の利いたひと言を言うためにも、普段から最低限の情報を集めておくことは大事です。

2 語彙力(ボキャブラリー) ―語彙が少ないと、思っていることも言えない!―


本を読んだり映画を観たりしたとき、「面白かった」「感動した」という感想しか言えない人がいますが、会話を膨らませるには「どこがどうよかったのか」を伝えたい。でも、ボキャブラリーが少ないと凡庸な発言しかできません。
私は話し方教室で、「いいコメントやセリフがあったらノートに書き留めておいて!」と勧めています。友達との会話やテレビからいい言葉を拾って、ネタ帳をつくり、その言葉を自分でも使うようにしてもらっています。そうすることで、語彙が増えていきますよ。

3 感性 ―五感をフルに使うことで個性的なひと言が出る!―


常識やボキャブラリーを身につけても、物事に対して何も感じないことにはコメントも生まれてきません。つまり気の利いたひと言を生み出すには、感性を磨くことも必要になってきます。
でも感性と簡単に言っても、一体どうやって磨けばいいのか分かりませんよね。
そこで習慣づけてほしいのが、観察することです。私はアナウンサーをしていた頃、同じ晴れという天気でも、必ず表現を変えて伝えろと言われました。さらには、「他のアナウンサーが既に使った表現を使ってはならない」とも。そうすると独自のコメントを見つけ出そうと必死になります。
街を歩いていても観察をし続ける。落ち葉の色や、周囲の人の服装の変化……。そうしているうちに、日々の小さな出来事や変化にも気づき、様々なことを感じられるようになっていきました。
視覚、聴覚、嗅覚 、触覚、味覚。皆さんも五感をフルに働かせ、周囲を観察し、感性を磨いてください。

 


4 瞬発力 ―瞬時に言葉にする訓練をしましょう―


何かを感じたり思ったりしても、それを瞬時に言葉にできなければ相手に伝わりません。ですから訓練で瞬発力を磨いていきましょう。
ぜひ試してほしいのは、ニュース番組を見て、その情報の一つ一つに反応すること。政治や野球のニュースなど、コメンテーターになったつもりでそれぞれに対して何らかの発想をしてください。
そしてできれば、実際に声に出して言ってほしい。それが瞬発力を培う訓練になりますよ。


6つの技で上手くなる! 気の利いた「ひと言」がつくれる基本テクニックを覚えよう!


やみくもに気の利いたひと言と言っても、どうつくり出したらいいのか分からないもの。下記の6つのテクニックを使うと、個性的なコメントになりやすいので、ぜひ覚えて、活用してください!

① 比較 「あの土地は東京ドーム2個分の広さがあります」
大きい小さい、長い短い、といった表現は個人的な尺度によるものが大きく、共通尺度がないので、何かと比較すると伝わりやすくなります。たとえば広さなら、「東京ドーム○個分ぐらい」などと。
ポイントは、聞いている人が「なるほど」と思えるよう、万人が知っているものを比較の軸として出すことです。「今年の新人君のギャグはうちの部長並みだね」などと、身近な人と比較するのも分かりやすいですよ。

② 比喩 「マシュマロのように柔らかそうな肌ですね」
比喩テクニックは、感想を求められたときに、とくに使えます。
「マシュマロのように柔らかそうな肌だね」とか、「泣いている子どもの口に入れてあげたいような優しい味の飴」などというように。自分がどのように感じたか、相手に分かりやすく伝えられるのでお勧めです。
ちなみに、お笑いコンビのタカアンドトシが生み出して一世を風靡した「欧米か!」も、この比喩テクニックを使ったひと言と言えます。

③ 数字 「このスーツ着ると男前度が2割増すんです」
たとえば企画書を提出したとき、「よくできていた」と言われてもボヤッとしていますよね。でも「120%の出来でした」とか「80点です」と言われると急に分かりやすくなる。“評価”は、「○倍」とか「○%」とか数値化するのがお勧め。
このテクニックは、“効果”を伝えるときにも便利。「男前度が上がる」と言うより、上記のように「2割増す」と数値で伝えると、効果の程度がグンと伝わりやすくなります。

④ 具体例 「子役の子の泣く演技が上手くて感動しました」
感想を言うとき、「感動した」「イマイチだった」などざっくり言っても伝わらないもの。具体的にどのセリフやシーンに感動したか、何がイマイチだったか、言うようにしましょう。「使っている音楽が合ってなかった」とか、「このセリフがよかった」とか。仕事でもたとえば、「この案件はリスクが高い」と言うより「予算がオーバーする」などと具体的なポイントを挙げたほうが、圧倒的に説得力が増すものです。

⑤ ずらす 子どもの写真を見せられたとき(あまりかわいくない場合)→「いいな~、私も子ども欲しくなっちゃった」
上記のシーンのように、見せられた子どもの写真があまりかわいくないなどコメントしにくいときや、恋愛など答えたくないことを聞かれたときは、答えの方向性をずらして別の話題にすり替える技はお勧めです。
ただし露骨にずらすと相手に「そらしたな」と気づかれてしまうので、微妙にずらす技を身につけてください。

⑥ 思いやる 「離婚したんだ」→「それは大変でしたね……」
例えば知り合いに「離婚したんだよ」と言われたら、まず動揺しますよね。そして、「この場を何とか取り繕わなきゃ」ということに必死になるあまり、次のひと言を失いがち。
でもそこで相手の気持ちに寄り添えば、相手が本当に言ってほしいひと言に気づけるものです。「寂しいときはいつでも電話してよ」とか。
テクニックとは少し違うかもしれませんが、思いやる気持ちは、とくに相手が落ち込んでいたり失敗したシーンのときに、気の利いたひと言を生み出してくれるのです。


渡辺 由佳
東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。テレビ朝日にアナウンサーとして入社。報道から社会情報番組まで多数の人気番組を担当。1993年に独立。以後、フリーアナウンサー、話し方講師としての活動を始め、「ビジネスマナー」「コミュニケーション」「ビジネスメール」をテーマに企業向けのセミナー講師も務める。大妻女子大学非常勤講師。

 

『会話が弾む! 一目置かれる! 気の利いた「ひと言」辞典』

渡辺由佳 著 1000円(税別) 講談社

この1冊で「言葉のセンス」が磨けます!
よくあるシーンですぐに使える気の利いた「ひと言」が満載。
ビジネスで、日常生活で、SNSで……。一目置かれる言い方や、ピンチを切り抜けるひと言など、使えるものだけを集めたコメント集。

(この記事は2018年5月11日時点の情報です)
構成/山本奈緒子 イラスト/田渕周平(520号)


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