『正しい日 間違えた日』
監督・脚本:ホン・サンス
出演:チョン・ジェヨン、キム・ミニ、コ・アソン、チェ・ファジョン、ユン・ヨジョン
配給:クレストインターナショナル ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次ロードショー
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主人公は講義をするためにとある町にやって来た映画監督のハム・チュンス。一日早く到着した彼は、観光名所で見かけた美しい女性、ヒジョンに声をかけます。絵描きだという彼女と監督はお寿司屋さんでほろ酔いになり、その後はヒジョンの先輩たちとの飲み会へと出かけて行きますが……。

 

男と女の一日を描いた『正しい日 間違えた日』。このラブストーリーがユニークなのは、ふたりの一日を前半と後半の2通りの展開で描いているところ。大筋は一緒でもほんの些細や言葉や選択が、チュンスとヒジョンを違う結末へと導いていくのです。もしもあのときああ言っていれば、もしもあのときあっちに行っていたら……、そんなどうしようもない後悔と、小さな駆け引きをチャーミングに描き出したのはシネフィルに絶大な人気を誇る、カンヌ映画祭の常連、ホン・サンス監督。『自由が丘で』では加瀬亮と組んだこともある、韓国の映画作家です。

 

監督の作品にいつも登場するのは、女にだらしがなくて勝手なのに、ついつい笑って許してしまうような魅力があるダメ男。フランス映画の香りがありつつ洗練されすぎない独特のタッチで、どうしようもない男と女の物語が描かれています。ホン・サンス監督の作品の魅力は、きれいごとやモラルからはこぼれおちてしまう人間の滑稽さを愛おしむようなまなざしにあるのかもしれません。

 

『正しい日 間違えた日』の種明かしをすると、この映画で初めてタッグを組んだホン・サンス監督とキム・ミニは運命的に惹かれ合い、実生活でも恋人同士になったことを公言しました。ちょこんと腰かけてバナナ・ウユ(牛乳)を飲んでいるだけでとんでもなくかわいいキム・ミニは、いわゆる存在が罪…! 状態。監督がキム・ミニに惹かれてしまったのもむべなるかな、既婚者である監督と女優の恋は韓国映画界を騒がせることになりましたが、この作品をきっかけとして共犯者となったふたりは以降『クレアのカメラ』『それから』などの傑作を生み出し、キム・ミニは『夜の浜辺でひとり』でベルリン映画祭主演女優賞を受賞しています。現在、ファンの声に応えて4作品連続上映中。一度この世界観とリズムにハマったが最後、ずっと浸っていたくなるほどクセになるホン・サンスの世界に、触れてみてはいかがでしょうか?

PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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