6月23日(土)、いよいよミモレ大学 in 京都が開講しました。ワコールスタディホール京都をお借りして、初の京都開催とあって、ミモレ編集部スタッフも緊張気味。でも、関西の受講生の方に初めてお会いできるとわくわくしていました。京都は全2回ですが、今回のテーマ「自分を知る、社会を知る、自分の未来を知る」がぎゅっと詰まったカリキュラムとなっています。記念すべき1回目の講義は、弁護士の亀石倫子さんが登壇しました。
会社員、無職状態を経て弁護士へ
「服は、人生やキャリアメイクに反映されている」
ミモレ編集部・川端の紹介で会場に姿を表したのは、法律事務所エクラうめだの亀石倫子弁護士。ひらひらとなびく裾が印象的な真っ赤なブラウスに、花柄フレアスカートという華やかな装いが目を惹きます。講演のテーマは「自分らしくいることを犠牲にしないキャリアメイク」。穏やかな笑みを浮かべている亀石さんですが、実は、令状なしのGPS捜査を違法とする最高裁判決や、ダンスクラブの風営法違反事件の無罪判決を勝ち取った気鋭の弁護士。
亀石さんが生まれ育ったのは北海道小樽市。観光地として有名ではあるものの、実際は保守的で狭い世界で、とても居心地が悪かったと振り返ります。ファッションが好きなのに服を売っている店は限られ、同級生と似たような服ばかり。それが嫌で、「セブンティーン」や「オリーブ」といった愛読誌で欲しい服を見つけてはお店に電話し、こつこつ貯めたお小遣いを振り込んで送ってもらったりしていました。
「みんなと同じ服を着たくなくて。進学校に通っていたのですが、“優等生らしく”みたいな同調圧力も嫌で反抗ばかりしていました。その頃からずっと、好きな服を着たいという強い思いを持ち続けています」
そんな亀石さんは、自分の人生と服に対するこだわりを振り返ってきた時に、「服は、人生やキャリアメイクに反映されている」ということに気づいたといいます。
小樽を出たくて東京女子大に進学した亀石さん。ところが、東京で怖気づいてしまってここで生きていく覚悟ができず、札幌にUターンして一般企業に就職。さらには、3年半後に結婚で会社を辞め、大阪に転居することに。
札幌で就職した会社は、女性のみ制服があり、総合職でも例外ではありませんでした。「服に悩まなくていいし、仕事用の服代が節約できる」と喜ぶ同僚もいましたが、亀石さんにとっては、「大人になってまで人に服装を決められるなんて!」とうんざり。さらには20代の新入社員と、50代の女性課長が同じ制服を着ているのを見て愕然とします。
「私はここで50代まで働きたくないと思いました。その課長は仕事ができる人だったのに、その人の良さが制服で消されているように感じたんです」
26歳で結婚して大阪に転居したものの、夫以外は知り合いがおらず、しかも無職。今まで自分が稼いだお金で服や化粧品を買っていたのに、それができなくなったことに愕然とします。
「収入がないという現実にうちのめされました。また、この時に自分で稼いだ服を身に着け、仕事を通じて社会とかかわりたいと強く思ったんです」
上限を設けて甘やかしていた自分との決別
自分に自信がつけば、服装にも自信が持てた
3年半の会社勤めで、自分は協調性がなく、組織に向かないタイプだと痛感していた亀石さんは、「資格を取って手に職をつけたい」と考えました。そこで思いついたのが、司法試験への挑戦でした。
「簡単な資格だと、簡単に使えなくなる。人生を賭けてやらなきゃいけないような資格じゃなきゃだめだ。それが司法試験だったんです」
無謀な挑戦だということは分かっていたという亀石さん。自分で稼いで好きな服を買うだけであれば、何も司法試験を目指さなくてもなんとかなるのでは? という気がしますが、亀石さんには、あえて高い目標に挑まなくてはならない理由がもう一つあったといいます。
「私は昔から、自分で自分を過小評価しているところがあるというか、“だいたいこのくらいかな”と達成できそうな上限を決めて、自分を甘やかし続けてきました。大学だって早慶上智は無理だからその下を。新卒で新聞記者を目指していたけど、圧迫面接で強く言われたくらいで、『筆記が受かっただけでも上出来』と怖気づいて諦めてしまった。そんな自分のスタンスを後悔し続けていたし、司法試験に合格するくらいじゃないと自分の人生をリセットして変えられない! と思ったんです」
“地獄のような”猛勉強の末、司法試験に合格したのは7年後のこと。司法修習を経て、晴れて弁護士になった亀石さんは、刑事事件の弁護を専門に扱う法律事務所で働き始めます。
「罪を犯した人や容疑をかけられた人を弁護する刑事弁護は、世間からは理解されにくい仕事です。夜間や休日を問わず、警察署に赴いて依頼人に会いに行きます。いつもスニーカーにデニム姿で、たくさんの資料を詰め込んだバックパックを背負っていました」
晴れて自分で稼げるようになり、好きな服を着られると思いきや、それどころではなかったのです。ところが亀石さんは、その格好を次第に気に入っていきます。
「同じ刑事弁護を行う弁護士の中には、『相手に舐められないように』と、スーツに弁護士バッジをつけてびしっと決めている人もいました。でも、私は威厳を付けるよりも、面会室のアクリル板の向こうにいる依頼人の話を、偏見を持たずに耳を傾け、信じてもらうことの方が大事だと思っていました。だんだん自分の仕事に誇りを持てるようになってくると、スニーカーやデニム姿にも自信が持てるようになったんです」
刑事事件専門の弁護士事務所で6年間経験を積み、2016年に独立。40代になって自分の事務所を構えた亀石さんは、今、好きな服を着ている自分に自信を持っていると断言します。
「今も裁判所に行く時に、スーツに弁護士バッジという格好はしません。以前、フリルの多いブラウスを着ていた時にその裁判がニュースで報じられたことがあったのですが、事務所に『主任弁護人なのに、あんなヒラヒラな服を着るなんて』と、匿名の苦情メールが来ました。大きなお世話だ! と思いましたけど(笑)」
同調圧力に息苦しさを感じていた10代から20代、自分でお金を稼ぐことができず、自信を失っていた30代を経て、自分に自信を持ち、主体的に好きな服を着ている40代の今、そんな苦情は全く気にならなくなっていました。
「今日の服ですが、実は赤い服は人生で初めて。たまたまお店で手にとったものです。こういうものを着たいという心境だったのかもしれません。自分の上限を決めることなく、着たことのない服に挑戦し、ますます自分が変わっていければと思っています。ただし、この服は派手すぎて流石に裁判所には着ていけそうにありませんが(笑)」
受講者の方から届いた感想PICK UP!
「自己の過小評価が後の不本意な選択につながった、だからこそ次の高い目標設定につながったというお話はとても印象深く参考になりました」
「弁護士の先生というお仕事と好きな洋服を着るという一見ギャップのある観点が、先生の生き方やキャリア形成に深く関わっているということがとても興味深かったです」
「素敵な笑顔でのお話、ありがとうございました。女性たちがお気に入りの好きな服を着て毎日仕事ができたら、この国はもっとハッピーになって成長できると信じています。亀石さんの信念、もっともっと広めてください!!」
「ワコールスタディホール京都」とは
今回「ミモレ大学 京都校」の会場となったのは、京都駅から歩いて7分の場所にある「ワコールスタディホール京都」。毎月、さまざまなイベントが企画されているほか、ライブラリーや自習やミーティングができるWi-fiやコンセントを完備した会員制スペースも。
受講生の方々は、ほかのイベントや講座にも興味津々でした。
予約受付中の講座はこちらから>>
■ワコールスタディホール京都
京都市南区西九条北ノ内町6ワコール新京都ビル1、2階
京都駅八条口より徒歩7分
構成/川端里恵(編集部)
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