先週末、スタイリストの斉藤くみさんも紹介していた、エルメスの展覧会『彼女と。』(無料/予約制)が開催されている国立新美術館へ。エキストラやアクターとして映画の中に入り込めるという話題の観覧者参加型展覧会です。

その映画の物語は、ひとりの「作家(アクター希望で予約した観覧者が演じます)」が、ひとりの女性=「彼女」の存在を追い求めるもの。私たちは、この「作家」とともに、会場内をめぐります。


〜ここからはネタバレします〜
 

これがエントランス。エントランスのドアを開けると、映画館のロビーが出現。ここでエントランスパスと展覧会のリーフレットを受け取ります。


まずは、ロビーの奥にあるミニシアターで「彼女」についてのショートムービーを鑑賞します。

「彼女」とは、まさにエルメスがずっと思い描いてきた女性。「彼女」は自由で揺るがない、どことなくミステリアスな雰囲気を持つ、感性豊かで情熱的に今を力強く生きる女性です。〜リーフレットより〜

こちらがパスとリーフレット。パスの裏面にはQRコードがあり、アクセスすると、この回で展覧会を体験した観覧者だけのオリジナルのエンドロールが見られる仕掛けが! 徹頭徹尾、素晴らしい演出!!


ミニシアターを後にし会場に入ると、7つの映画のセットが。そこでは撮影クルーがスタンバイしており、映画の撮影が実際にスタートします。この7つのセットを私たち観覧者がまわっていくことで、「彼女」という存在にどんどん近づいていけるというわけです。

観覧者は撮影現場の緊張感、臨場感が味わえます。役者の方の衣装はもちろんエルメス!
「撮影スタート!」の声で実際に役者の演技が開始されます。


セットとセットの間や裏側には、映画の撮影現場さながらの舞台裏も再現。とにもかくにも、そこかしこに無造作に置かれた、エルメス! エルメス!! エルメス!!!   小道具、衣装、家具のすべてがエルメス。天国と見まごうばかり(笑)の眼福の光景が広がるのです。

  • 友人による回想シーンのセット。
  • 手前はセット裏。奥に見えるのはヘア&メイクブース、ストックブース。
  • 「神は細部に宿る」ということを深く実感できる緻密な小道具演出がそこかしこに。

そして、私たちは単なる観覧者ではなく、エキストラ参加であるわけなので、「俳優さんたちに混じってパーティの招待客を演じる」という体験も。

ひとりずつグラスを持ってセットの中でスタンバイ。同じ回の観覧者の方たち(約50名)と乾杯を交わすエキストラを演じました。一人参加だったので、状況に照れまくっていたら撮影はあっという間に終了してしまいました(笑)。


とにもかくにも、プロダクトすべてがエルメスのものでデコレーション。小道具のあり方が余すところなく完璧すぎてシャッターを押す手が止められません。そのうちの一部を紹介します。

  • このような感じでひとつのセットの裏には必ずひとつの舞台裏、楽屋がセットされています。ラフに置かれた小物たちをくいいるように観察。
  • 精密に描かれた絵コンテなどもシーンに合わせてセット裏に貼られています。こんなにディテールに凝られていたら、どんなに時間があっても、足りないではないか(笑)!
  • アイテムをさりげなく置くことの難しさは長年静物撮影に立ち会ってきたため認識しております。人の気配を感じる小道具の置かれ方にはうなるしかありません。すごい!
  • 今さっきまで「彼女」がいたのではないかと思える空気感にウットリ。
  • さりげなく置かれた食器やラグももちろんエルメス!  
  • このデッキチェアももちろんエルメス!


2018年の秋から冬の季節を舞台に重ねられていたシーン。7つのセットでの体験を終える頃には、「彼女」というイメージの輪郭がどんどんクリアになっている自分に気がつきます。そして、ひんやりとした展示ルームから一歩外に出ると、そこにはうだるような真夏の六本木という現実世界が広がっていたわけですが、しばらく夢うつつのまま、フワフワとした足取りになってしまったことは言うまでもありません(苦笑)。

ここ数年ラグジュアリーブランドが展覧会形式で消費者とコミュニケーションをとる事例が増えている気がします。中でも今回の展示は、エルメスの美意識が炸裂した世界の中で、映画撮影をワイワイと体験できるという演出が本当にユニーク! 

エルメスは冒険者であり、冒険から生まれる物語の語り手でもあります。〜リーフレットより〜

私たちは、即物的な商品プロモーションにはそろそろ辟易し始めています。そんな情報過多な時代だからこそ、ブランドの持つ物語をリアルの場で楽しく体験してもらおうとするエルメスの心意気はさすがの一言。「こんな懐の深さがブランド力ときっちり比例する時代になってきているのだろうな」などと思いつつ、私は六本木を後にしたのでした。

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