*ほぼ毎週金曜日に ショートストーリーをお贈りさせていただきます。
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極寒の東京。二月某日。夜。

ライトアップされ光に包まれている美術館。ベルリンからのビジュアル・アーチスト十二人が集まった、コンテンポラリー・アート展のオープニング。

私はここのキュレーター、つまり学芸員として働いている。今日は受付を担当。今回のキュレーションは別のスタッフのため、私はサポートに入っている。

当たり前のように、オープニングの日は黒いドレスに身を包み、お客様をお出迎えする。

どこか高揚する一日だ。

 

現代音楽の新進気鋭、KONTA TOSHIYAくん、通称「ゴン太君」のミキシングで、ギャラリーホアイエのホワイトキューブは、無機質なサウンドアートで包まれている。新進といっても三十歳後半。この業界にはよくある話。遠くに見えるゴンタくんと、アイコンタクトをとって、「がんばってるぅ~?」 と励ましあう。

 

この季節の受付は寒い。ドアが開くたび外からの冷気をスカート越しに感じている。

 

「すみません。招待券ないんですが……」

 

 一人の知らない初老の男性がやってきた。隣の後輩、夏帆譲は、「申し訳ございません。本日はご招待をしている方のみでして……」と、蝶のようなマスカラの瞳で、美しくお断りをする。黒服なだけに、色白の肌が余計華やいでみえる。

 

 

「そうですか……実は孫がかかわってるもので」

「お孫さん?」

「ええ。サエザキのうちのものなんですが……」

 

え……!

  コロッと態度が変わる我々。もしかして、サエザキ・コウゾウ?! マスコミや外に一切でない、伝説の美術作家であ  る。夏帆譲と顔を見合わせ、我々は、尊敬のまなざしでお通ししてしまう。