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失敗した買い物を成功にかえる方法 【岡本仁&岡本敬子夫婦対談】

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一度手に入れたアイテムには
とことん愛する努力をして責任を取る


―ご著書には、お二人がお買い物されたアイテムが100点以上も掲載されていますが、どれもさすがのセレクトだなと思うような素敵なものばかり。そんな達人のお二人でも、お買い物に失敗するようなことはあるんですか?

敬:もちろん、ありますよ。でも、恋愛と一緒で、一度は惚れた相手なんだから、愛する努力はするよと(笑)。たとえば失敗したアイテムが洋服なら、一応着こなしの工夫をして取り入れるようにはしていますね。

 

仁:僕も失敗はしています。昔の話になりますが、僕は中高生の頃から音楽が好きで、お小遣いができるとレコードを買っていました。といっても、その頃の僕が自由に使える額なんてたかが知れているので、月に一枚くらいしかLPレコードを買えないわけです。その貴重な一枚が失敗だったときのショックといったら。でも、今月のお小遣いはすべて使ってしまったので、失敗だとは思いたくない。だから、好きになるまで聞き込むようにしていましたよ。そういう姿勢がいまもずっと続いているという感じ。

敬:若い頃に好きじゃなくても、年齢を重ねると「いいな」と思うようになるのよね。その音が心に沁みて、思わずホロリとする時期がくる(笑)。

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仁:そうそう。昔、買って失敗したと思ったレコードの曲があるとき突然ラジオから流れてきて、「いい曲だな~。あっ、俺、持ってたわ」って(笑)。だから、たとえどんな買い物で失敗しても「こんないいところがあったんだ!」と長所を見つけるような努力をするということ。そしてそれが後々、熟成されたワインのように自分の好みにフィットしてくることがあるということを、早いうちにレコードから学んだような気がしますね。

敬:洋服もそうよね。若い時に「これはちょっと」と思っていたような服が、今になって着られるようになったりして。

仁:洋服のことでいうと、見た瞬間に「これはいい」と一目ぼれしているものと、時間が経ってからピンとくるものと2種類あるんですよね。僕なんかは、後者のパターンが結構多い。というのも以前は仕事柄、よくファッションブランドの展示会に行く機会があったので、気になる服があったら買い物=投票だと思ってオーダーをしていたんです。でも、すぐに着るとなるとなんだかしっくりこない。それでしばらく寝かせておいて、8年後に引っ張り出して着てみたらようやくいいなと思えたりして。そういうことがよくあるんですよ。

―なるほど。すぐに“失敗”に終わらせないように、長い目で見たり工夫したりするのが大事だということですね。それでは、お二人とも基本的には、買われたものを捨てずにずっと持っていらっしゃるんですか?

敬:愛する努力をして手元に置いておくものもあれば、手放してしまうものもありますね。選択の基準は、そのアイテムに“ときめき”があるかどうか。以前4年に1度引っ越しをしていたときには、フリーマーケットで売ったりして都度、整理をしていました。


仁:僕の場合でいうと、持ち物は圧倒的に本が多いんですが、まだ読んでいなくてもいつか読みたくなるだろうなと思うものは取っておく。そういうのも“ときめき”があるものだということになるんでしょうね。


買い物は単にものを手に入れる
という以上に意味のある行為


―今は断捨離ブームでミニマリストを目指す人が増え、消費者がものを買わなくなっているといわれています。それについてはどう思われますか?

仁:僕には買い物をしないということが想像できないですね。

敬:私も買い物をしない人の気持ちが分からない(笑)。

仁:『ああ、またお金を使っちゃったな』とか『家が散らかってきたな』とかいう罪悪感が湧いてくることはあります。それに、以前は特定の場所に行かないと買えなかったようなものが、ある時期から東京ですべて手に入るようになってしまい、さらには買わなくてもすべて体験できるという方向に時代が進んできている。そういうことを合わせて考えてみると、確かに買い物は無駄な行為なのだといえるのかもしれません。でも僕は、そんな無駄な行為には意味がないからもっと効率的に物事を進めようというような、“賢すぎる”振る舞いのほうが嫌なんです。その行為に意味があるかどうかというのは、自分以外の人が決めることではないですし。

敬:実際にお買い物をしてみないと分からないことや、体験できないこともたくさんあるしね。

仁:そうそう。たとえば僕がチェンマイのあるお店に行くたびに、欲しいと言い続けている木彫りの馬があるんですが、店主がなかなか首を縦に振ってくれなくて。もうその店に通って6,7年になるので、今では僕が店に入ったとたんに何も言っていないのに「売らないよ」と言われるようになってしまったんです(笑)。ここまでくると、もはやそれが欲しいのか、売ってもらえるまでのプロセスを楽しんでいるのか分からない。けれど、そんな風に“あの場所に行かないと買えない”というものがあるから“あの場所に行く”という体験ができ、そこでしかできないやり取りもできるわけで。そういう楽しみ方ができるのも買い物の魅力のひとつだと思うんです。それに、買ったものについて後々誰かと話をするときに、単に「あれを持っています」という話で終わるより、エピソードを語ることができるほうが断然楽しいし、豊かな気分になると思うんですよね。

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―つまりお買い物というのは、単にものを手に入れるだけの行為ではないということですよね。

仁:そう。買い物というのは、自分が何をいいと思うのかという価値観や美意識を明確に表す行為。当然、失敗することもあるけれど、それすら笑い飛ばせるような感じで楽しめばいいんだと思いますね。

敬:私にとって、お買い物は“元気のバロメーター”。私から物欲がなくなったら、調子が悪くなったのかなと思いますね(笑)。

仁:僕も一度、『この一枚が手に入ったら、自分のレコード収集に終止符を打とう』と考えたことがありました。でも、それを手に入れたあと、『終止符を打つ』と考えたことに終止符を打とう、という風に考えがくつがえりました。あのときの俺はどうかしていたんだと(笑)。それ以降、何かを買いたいという気持ちは全く減じない。だから僕たちはこれからも、“迷ったら買え”をモットーに、買い物を楽しんでいきたいと思います。買い物は常に“物との一期一会”なんですから。

最近の「今日の買い物」―ジョージア・オキーフ ミュージアムのブローチ(敬子)
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「アルファベットのkとoをモチーフにしたブローチは、この5月に訪れたサンタフェのジョージア・オキーフ ミュージアムで買ったもの。オキーフのイニシャルだと思うのですが、一目見た瞬間、私のイニシャルと同じ!と嬉しくなってしまいました。オキーフ本人が身に着けているのはアレクサンダー・カルダーという現代美術家がデザインしたものですが、これはそのレプリカとして作られたようです。ストールを留めたり、衿のないジャケットのアクセントとして着けたり。また、単品でセットでと、着け方をさまざまに工夫して楽しみたいなと思っています」
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岡本 仁 岡本 敬子 著


買い物は店へのエールである。今はもう失われてしまった店の記憶や、変わらぬ老舗の味。スタイルのある洋服やアクセサリー、そして古びないプロダクトデザイン。今日もまた、いろいろなものを縦横無尽に買い物する2人の、もの選びのセンスとは? ものを選ぶことが仕事でもある編集者岡本仁+ファッションディレクター岡本敬子の大人気買い物エッセイ、新装版が登場! (解説・平野紗季子)
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岡本 仁

北海道夕張市生まれ。テレビ局を経てマガジンハウスに入社、雑誌『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの編集に携わる。2009年よりランドスケーププロダクツにてプランニングや編集を担当。近年はキュレーションなども手掛ける。著書に『東京ひとり歩き ぼくの東京案内地図。』『また旅。』『果てしのない本の話』ほか多数。
Instagram:@manincafe

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岡本 敬子

アタッシェ・ド・プレス、「KO」ディレクター。文化服装学院スタイリスト科卒業後、スタイリストオフィスに入社。その後、大手アパレル会社のPR部門にて国内外のブランドのPRを担当。独立し、アタッシュ・ド・プレスとして複数のブランドを担当しながら、2010年に自身のブランド「KO」を立ち上げている。現在はnanadecorにて「KO」ラインを、千駄ヶ谷のショップ「Pili」のディレクションも手がける。instagram:@kamisan_sun

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撮影/目黒智子 取材・文/河野真理子
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