「疲れていたり、睡眠不足だったりすると、ぼんやりして目の前のことに反応できないし、そもそも見ようともしなくなってしまいますよね。だから電車に乗っていても、世の中の人は何を必要としているのかな、とその空気感を嗅ぎ取ろうとしています。でもその感覚って、意外と正しいんですよ。そうやって常に敏感な状態でいたいから、規則正しい生活を送って、自分なりの健やかさを保つ努力をしているんです」

そこまでするのは、自分を信じてくれている人たちに応えたいからでもあると言う。「等価交換ではなくて、何倍にもして返したいと思っているから」と語る松浦さん。だから、休日も特に遊びに行くことはなく、明日からの仕事のために体を休めることに使っているそうだ

「仕事でクタクタにくたびれているので、休日は体を休め、家族とのコミュニケーションをきちんと取るというのが僕の過ごし方。あとは草むしりとか、平日にできていない“暮らしのこと”をするくらい。本当に、淡々とした毎日の繰り返しですよ。仕事が一番楽しいですね。だから特に遊びたいとも、刺激が欲しいとも思わないんです。それって、すごく幸せなことですよね」

「楽しみは仕事、だから気分転換は必要ない」と語る。

静かに、しかしきっぱりと、今の自分を「幸せ」と言い切った松浦さん。私たちも、淡々とした毎日の暮らしこそが幸せ、と思えるようになれれば、年齢を重ねてもずっと輝き続けられるのかもしれない。そのために、今の年齢でしておくべきことは何か、松浦さんに伺ってみた。

「僕自身、年齢を意識したことがないですからね。気分によって、20代になったり30代になったりしています。年齢のことは、忘れたほうがいいですよ。そのほうが、何歳になっても初々しくいられると思います。それこそ、80歳になっても‥‥‥。唯一言えるのは、若いからと過信しないで、常に規則正しい生活を送っておくこと。そうすると、40代半ばになったときの集中力、瞬発力に絶対差が出てくるんですよ」

■プロフィール

松浦弥太郎

1965年生まれ。10代後半から20代半ばまでをアメリカで過ごし、帰国後、セレクトブックストア・
COW BOOKSをオープンし話題になる。2009年より今年3月まで、『暮らしの手帖』編集長を務める。今年4月にクックパッドに移籍。7/1より新たなWEBサイト『くらしのきほん』をスタートさせた。また文筆家としても活躍中で、雑誌や新聞など多数の連載を持つ他、著書も多数。近著に『くいしんぼう』『松浦弥太郎の男の一流品カタログ』(ともにマガジンハウス)など。


撮影/目黒智子 取材・文/山本奈緒子