お仕事帰りに同僚と。大切な家族や友人と。
心からおつかれさまと伝えたい日のレストランを厳選してご紹介します。

料理するのもサービスもシェフひとり。近ごろ、そうした小さな店が増えている。時にはセルフサービスで、なんてこともあるけれど、それもまた面白さ。 なにより、シェフとの距離の近さは、何者にも代え難い魅力。料理が気に入れば、きっと通いたくなるはず。


ソムリエでもあるシェフの、ニッポンキュイジーヌ
ヒロヤ(外苑前)

和歌山県産赤どり胸肉のロースト¥3000。赤どりの特徴である薄い皮はパリッと、歯ごたえのある身はしっとり仕上がっている。(入荷次第)

店内に入ると目に飛び込んでくるのは、和食器がセットされたクルミ材のカウンター。中にはすらりと長身のシェフひとり。魚に串を打っていたかと思えば、鶏肉を炭火で焼き、かと思えば、手慣れた様子でワインも注ぐ!
店主の福嶌博志さん、ソムリエでもあるのだ。実は福嶌さん、欧州でフランス料理の修業をした後、帰国。日本料理店で和食を学び、直近はスペイン料理店にいたという経歴の持ち主。あらゆる技法の中から食材に合った調理法を選び、ひと皿に仕立てる。淡泊な黒ソイは浅めに火を入れてふわりと焼き上げ、ソイのアラで取ったダシがベースの、九条ネギの甘みが上品なソースと合わせる。フレンチベースながら、まるで和食のような繊細さだ。

白子の炭焼き¥1600。炭火で焼いた白子の下には、ジャガイモとタラのブランダード。上にはジャガイモのチップがのる。
黒ソイのオーブン焼き¥2000。九条ネギはとろとろに火を入れてソースに、素揚げしてト ッピングにも。器は日本の作家ものを主に和洋取り混ぜて使用。
見栄えも考慮し、黒のまな板で調理する福嶌さん。故郷が和歌山とあって、和歌山産の食材も積極的に取り入れている。
柱や照明などに和のテイストを取り入れた、福嶌さんの料理を象徴するかのようなインテリア。カウンターの奥に個室がある。

【ヒロヤ】
東京都港区南青山3-5-3-101 03-6459-2305 営業時間18:00~翌3:00 不定休 カウンター8席 個室2~8名1室 その日の献立が、冷菜、温菜、魚介、肉、チーズ、〆もの、甘味に分かれて35~40種で、前菜¥900、魚介¥1200~飲み物は日本酒とワイン。ワインはフランス産主体で、その日に開けたボトルから。


予約至難の中国料理店の元シェフ、再始動!
うずまき(赤坂)

白イカの紅麹炒め。紅麹が引き出す旬の白イカの甘さと、深めに包丁目を入れて透明感が残るぐらいに仕上げたイカの食感がごちそう。

扉を開けると、階下には4人がけのテーブルがひとつだけ。その横のカウンターに立つのは、あの予約至難の中国料理店『ロンフウフォン』で腕を振るっていた柳沼哲哉さん、その人だ。体調を崩して5年ほど休んでいたが、人気店『うずまき』で、コース一本の店を始めた。でも、早くも予約至難。なにせ一日3組のみ。ほかにない料理を作る柳沼さんですから、いわゆる中国料理を想像していると、予想外の皿にノックアウト。紅麹だけで味付けした白イカのねっとりとした味わい。熟し柿を絡めただけの安納芋の甘さ……。油は控えめで"醤"も使わず、驚くほどシンプルなのに、これがおいしい。しかも、ちゃんと中華だから不思議だ。

料理はすべて1万円のコースの一例。鴨のハンバーグの煮込み。合鴨の挽肉でハンバーグを作り、カブとカブの葉を入れた腐乳のソ ースで煮込んでいる。腐乳のクセがほとんどなく、食べやすい。
安納芋と熟し柿の炒め。柿を"醤"のように絡めていて、なんともやさしい甘さ。

 

「休日は、道の駅で食材探し」という柳沼さん。
一日3組のお客様を大切にもてなす。

【うずまき】東京都港区赤坂 5-5-11 赤坂通り50番ビルB1F tel.03-3584-2116 営業時間:月~土 18:00ー23:00 (ラストオーダー 20:30) 休日:日曜、祝日 テーブル1卓2~4名 1日3組限定の完全予約制で、 10~12皿からなるおまかせコース¥8000と¥10000がある。

撮影/柳原久子 取材・文/齋藤優子 構成/藤本容子
FRaU 2014年掲載『おつかれレストラン』より ©講談社