お仕事帰りに同僚と。大切な家族や友人と。
心からおつかれさまと伝えたい日のレストランを厳選してご紹介します。

日本人だもの、この時季ぐらいは、折目正しい和食で、過ぎゆく年をしのび、新たな年を祝いたいそんな気分にぴったりの2軒です。派手さではなく、和食ならではの、細やかな季節感と心遣いを味わったら、締めは薄茶を頂戴して。


昔ながらの仕事が潜む、奥ゆかしい料理を味わいに
さとき(銀座)

加賀蓮根で作った蓮根餅と金目鯛のお椀は、輪島塗りの器で。椀物の出汁は、昆布、鰹節とメジ(マグロ)節を合わせたもので引いている。

たとえば、前菜の盛り合わせ。鍋から引き上げたばかりの湯葉がのぞくあしらいは、枯れた葉で冬を表す透かし朴葉。実は、湯葉のみならず、このあしらいも自家製だから驚きます。有名店の料理長を務めた後、8年前に店を構えた太田智樹さんは、いまではほとんどの料理人がやらなくなった手間暇かかる昔の仕事や献立を、大切に作り続けている。最近はごまだれが多い鯛茶も、ここでは漬けの鯛を使う。料理の甘味づけは砂糖を使わず、みりんだけ。なますはごまを加えて酸味を抑えるなど、味わいはどれも穏やか。加えて、「金目鯛に合わせた蓮根餅は、そもそも冬のものでね……」と、料理を前に繰り出される太田さんの話がまた深く、おいしさもひとしおだ。

前菜の盛り合わせは、生すじこの醤油漬け、新銀杏、鯖寿司、自家製の湯葉、芽芋の白和え、柿に見立てた温泉卵の西京漬け。白和えは、豆腐の和え衣と芽芋が出汁を含んでいて旨い!
料理はすべて夜¥10800から。こちらは柿なます。飲めるぐらい酸味が穏やかなごま酢で和えていて、柿の自然な甘さとよく合います。大根、にんじんに柿、もって菊と焼き舞茸も合わせて。
厨房を囲むL字カウンター。厨房をすべて見せてしまうところが潔い。

【さとき】
東京都中央区銀座4-8-13銀座蟹睦会館B1 03-3563-1112 営業時間18:00~21:00LO 休日:月 カウンター9席 テーブル6席 夜のおまかせ全10品¥10800〜 昼は前日までの要予約で¥5000〜 昼の時間は応相談(すべて税別)


茶懐石のもてなしの心が随所に感じられる店
懐石 大原(四谷三丁目)

夜¥10000の年始の献立から、白味噌の雑煮椀。すっきりとした白味噌椀に、焼いた丸餅、梅にんじんや柚子、ぎんなん、大根などが。(季節による)

年始めの献立。末広がりの扇形の皿に盛られた八寸は、くわいもどきの松葉刺しに近江絹田巻など、どれも端正。おめでたい亀 のお椀で出される白味噌の雑煮椀は、やわらかな甘味ですっきりとした味わいだ。主人の大原誠さんは、半日水につけておいた昆布出汁を沸かし、その場で鰹節を削って、椀物の出汁を引く。これは12年間働いた目白の茶懐石『和幸』で学んだ仕事だという。『和幸』店主亡き後、故郷に戻るつもりが、茶事の料理を頼まれるようになり、自然と店を構えることに。「料理の順番など、茶懐石とは違いますが、その心を大切に、料理を作っています」その言葉どおり、器の使い方から料理の出し方まで、もてなしの心が感じられる新店だ。

夜¥10000の年始の献立から、蒸し物。ずわい蟹が入 った茶わん蒸しに、蒸し雲丹、白魚、菜の花がのり、銀あんがかかる。(季節による)
八寸。大きな百合根には自家製のわざび漬け、その他、つやつや美しく煮込まれた黒豆の蜜煮、海老芋の旨煮、数の子など。(季節による)

 

大原さんは新潟県出身。『和幸』の料理に感銘を受け、上京して門を叩いたそう。
タモ材のテーブルが置かれた店内には、九谷の花器などが飾られ、凛とした雰囲気。実は元お好み屋さんだと聞いて驚き。

【懐石 大原】東京都新宿区荒木町1中林ビル2F tel.03-6380-5223 営業時間:12:00〜13:00LO(水・土)、18:00~20:00LO(月〜土) 休日:日、祝 カウンター4席 テーブル8席 夜¥10000。昼¥7000、¥10000 昼夜とも2日前までに要予約。飲み物は日本酒、焼酎、ワインもあり(税サ別)

撮影/小出和弘 取材・文/齋藤優子 構成/藤本容子
FRaU 2013年掲載『おつかれレストラン』より ©講談社