凸凹夫婦が見た景色


インタビュー前半では終始穏やかだった早苗さん。しかし話が後半の子育てや教育に関わる部分に差し掛かると、正直な気持ちが湧き出てきます。それだけ子育てというのはこれまでの価値観や考え、習慣や環境が大きく反映されるのでしょうか。子どもの未来のことだと思うと、早苗さんのように真面目な女性であれば余計に力が入るのかもしれません。

早苗さんは少しずつ貯金をして、思い切って英明さんに「中学受験をさせたい」と告げます。すると彼は最初きょとんとしたものの、「塾ってテレビで見る、やっててよかった公文式みたいなやつか! 早苗ちゃんみたいに頭が良くなるならそれもいいね!」と賛成したと言うのです。

正直に言ってその程度の認識で首都圏の中学受験をスタートすると、圧倒的な勉強時間、年間150万円近くなる大手中学受験塾代や、私立に進学してからの学費や交際費や塾代に面食らうことは想像に難くありません。それがわからない早苗さんではないはず。しかし彼女は確信犯となり、そのまま計画を進めます。

「困ったのは、とにかく彼に『家で勉強する』という発想がないので休日にどんどん子どもを遊びに誘いだすこと。ゲームを我慢する、という考えもないし、友達が誘いに来て勉強を理由に断ると、本気で怒ります……。6年生の夏期講習では、1日8時間くらい塾だと言ってもまったく信じていませんでした。子どもたちは全員塾から脱走して適宜息抜きをしていると思っていましたし、実際塾にふらっと言って飯いこう、と息子を誘ったり。塾でもトンデモ親として噂されていたと思います……。

でも、そこは考え方を変えました。私は受験生の頃、勉強しすぎて体を壊したこともあるので、英明さんくらいのテンションもいいなって思うようにしました」

そんな調子で上手に「計画」を進めた早苗さん。父と母の役割分担がうまくできていたとも言えます。ちなみに塾代は、総費用の半分程度、具体的には季節講習や特訓分は早苗さんのパートで賄い、英明さんの口座からは月々6万円の引き落としでごまかしたといいます。あまりお金に頓着がない英明さんでしたが、たまに「ひいっ、何かの間違い!?」と悲鳴を上げていたとか。

それでも、まったく未知の中学受験というものに、それほどの大金が投じられ、息子があり得ない長時間塾に拘束されているのを容認した英明さんの懐の深さも素晴らしいと筆者は感じました。推察ですが、彼は基本的に早苗さんを素直に尊敬していて、その彼女がいいと信じているものならば、まあ、やってみたらいいと考えていたのではないでしょうか。

「塾に月6万円!?何かの間違い?」元ヤン父、中学受験塾代に驚愕。秀才母の密やかな計画とは?_img0
 

またもしかして、働くなかで初めて社会の厳しさ、格差社会のようなものを感じ、子どもは違う生き方もあると考えたのかもしれません。というのも、早苗さんのお話によると、この頃40代に突入した英明さんは、運送業のハードな働き方はしんどい、管理職になれたらいいのだけど、と呟くことがあったといいます。

 

お2人は、それぞれの人生経験から、お子さんたちの教育に関してはまさに「ハイブリッド」を目指したのです。