先月講談社にて、侍ジャパン前監督・栗山英樹さんの著書『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』出版記念講演会が開催されました。
一般観覧席には、席数をはるかに超える申し込みが。当日は開場前から多くの参加者が長い列を作り、会場となった講談社の記念講堂は熱気ムンムンに。
講演会は大いに盛り上がりましたが、その内容が聞けるのは参加者だけの特権。ただ、冒頭、老舗書店の有隣堂・松信健太郎社長との出版記念特別対談が行われ、こちらはメディアにも公開されました。
今回、「本という救い」というテーマがつけられたこの対談の内容を、解説を交えてご紹介します。本にない内容もあり、栗山さんらしさ溢れる対談となりました。

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対談を行った栗山英樹さん(左)と老舗書店の有隣堂・松信健太郎社長(右)


自分の実体験として感じていたことを本に


松信健太郎さん(以下、松信):この度は『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』の出版おめでとうございます。私も早速拝読しました。付箋だらけになっちゃいました。

栗山英樹さん(以下、栗山):自分が出した本で、こういうところに出てくるというのは、めちゃめちゃ恥ずかしいです(笑)。
 

 


松信:まえがきに、こんなフレーズをお書きになっています。
「僕が今、最も伝えたいこと。それは、『信じる』こと、もっと言えば『信じ切る』ことの大切さを、改めて日本人に思い出してほしい」
出版されて少し経って、この思いは伝わり切りましたでしょうか。

栗山:そうですね、なかなか難しいとは思いつつ、やっぱり書かせていただきたいと思っていました。
僕はヤクルトスワローズの選手時代でも、北海道日本ハムファイターズの監督をやらせてもらっているときでも、「信じ切る」ことの大切さを実体験として持っているんです。
例えば野球では、ここで点を取りたい、というときに代打を出すという作戦があります。レギュラー選手がいるのに、そこに代えて代打を出すわけです。
しかも、選手を使い切ってしまって最後、残り一人になっているときに出す代打もある。これは、いわゆる代打の切り札を出すときとはちょっと違いますよね。
それでも、「この選手が絶対に打つんだ」と信じて送り出さないと、やっぱり結果は出ないんです。それを、体験として持っているんです。選手に思いが伝わるのかどうかは別にして、こちらが本当に信じ切らないと、いい結果は起こらない。
逆の立場で言うと、「頼む! お前しかいないんだ!」という空気は、その選手の力をより大きくしてくれると思っています。実体験としてそれを感じていたので、ぜひ多くの方に知ってもらいたかったんです。

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著書『信じ切る力』では、WBC準決勝のメキシコ戦、9回裏で日本が4対5で負けているシーンを栗山さんは振り返っている。あと3つアウトを取られたらゲームセット。侍ジャパンのWBCは、そうなったらここで終わりだった。しかし、栗山さんは信じ切っていた。選手たちはきっとやってくれる、と。
大谷翔平の2ベースヒット、4番の吉田正尚のフォアボールでノーアウト1、2塁。次のバッターは、開幕から不振を極め、この日も4打席3三振の村上宗隆だった。誰もが代打を出すかと思いきや、栗山さんの決断は「代えない」。そして、その結末は……。本では、そのときの思いが詳細に綴られている。

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松信:第1章では、冒頭でWBC準決勝での村上選手のエピソードが書かれていますが、あれを読むと、本当に信じ切る力ってすごいな、偉大なんだな、と感じずにはいられないです。こういうことなんだな、ということが、よくわかります。
他にも、ヤクルト時代の病気のこと、日本ハムの監督時代のいろんな場面のエピソードも出てきます。さまざまな局面での体験を交えながら、「信じ切る力がいかに大切なのか」を50のお話で書いておられます。
今回の対談は、「本という救い」というちょっと大袈裟なテーマがついているんですが、栗山さんは本の119ページで、こんなことをお書きになっています。
「本からの学びがなかったら僕は壊れていたかもしれない。壊れないで済んだのは、先人たちの本に救われたからです」
栗山さんの人生にとって、本というのがどういう存在なのか、お聞かせいただけたらと思います。

 
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