「香港美人ってよく見たら、いわゆる美人というわけでもないんです」

そう話すのは、中医学博士の楊さちこさん。大阪で生まれ育ち、香港人と結婚。香港に約30年暮らし、中医学の知識に基づいたアジアンコスメを日本に紹介し、美容や健康に関する活動を行っています。

ビクトリアピークから見た香港の夜景。 「香港は狭いから、日中は高層ビル群や古くて小さい街が混在していてごちゃごちゃしているけど、夜になると、それらがすべて闇に隠れて、お金持ちも庶民も関係なく、それぞれが明かりを放ち、香港の百万ドルの夜景になるんです」(楊さちこさん)

そんな楊さんは、香港に移住して間もない頃に参加したパーティーで“香港マダム”を目の当たりにし、どの角度から見ても隙のない美しさや、適度な緊張感、それでいて優美な雰囲気に圧倒されたといいます。しかもファンデーションをつけていないのに、毛穴がなく、陶器のように美しい肌にも驚かされたそう。

でも、よくよく見るとモデルや女優のような感じではなく、それぞれに個性的。特に「美人」というわけでもない?

「自分に自信を持ち、自分にしかない輝きを内面から放っていて、それが、周囲が思わず“美人”と思わずにいられない強さだったんです」

楊さんはそこから、“香港マダム”をはじめとする、周囲の美人を観察しはじめるうちに、「キレイとは何か?」を考えるようになり、3つのポイントに気づきました。それは、

「(周囲の人から)キレイに見られている」
「(自分が)キレイに自信を持てる」
「(友達から)変わらないね、と言われる」

ということ。自分がキレイになるのではなくて、「見られる」ってどういうことなのでしょうか?

「誰かのことをキレイと思う時、全体的な雰囲気からそう感じますよね? でも自分のことになると、“鼻の形が嫌”“二重だったらいいのに”とパーツが気になってしまうものです。細かい部分を気にしていてはきりがありません。だからこそ、自分がキレイに『なる』よりも『見られる』ことを目指すべきなんです」

確かに、飛び抜けて美人というわけではないものの、自分に自信を持っていつも明るく振る舞っている人は、不思議と魅力的に見えてきます。他の人を見れば納得できるのに、つい自分のこととなると、細かい部分が気になってしまったり、なかなか自信を持てなかったりするもの。

ところで、欧米人に比べて東洋人は実年齢より若く見られることが多いのですが、楊さん曰く、香港でも「実は60代なのに30歳前後にしか見えない」という、年齢不詳の女性が大勢いるそう。それは人種の違いだけではなく、中医学に基づいた“東洋の知恵”にヒントがあると楊さん。

香港人は中医学を大切にするだけでなく、風水の考えを守り、寺院へのお参りも欠かさないそう(パワースポットとして知られる、香港の大坑蓮花宮)

「中医学では、心と体は密接なつながりがあり、両方のバランスが取れた“中庸”が望ましいと考えます。心と体のバランスが整った状態というのは、まさに“キレイ”の本質でもあります。香港では、生活のあらゆる場面に中医学の考えが浸透していて、香港女性たちはそれを当たり前のように実践しているんです」

その代表的なものは「体を冷やさない」ということ。香港といえば亜熱帯気候で冬の数ヶ月間以外は常に気温と湿度が高い場所。それなのに、レストランや食堂で出される飲み物は、温かいお茶や常温のお水が基本です。中医学では、冷たい食べ物は体の中から冷やし、内臓の働きを鈍らせてしまうと考えられているからです。

「もし美意識の高い香港マダムがレストランに入り、氷入りの水が出てきたら、『温かいお湯を持ってきて!』と言うはずです。自分の体を守れるのは自分しかいませんし、自分の美容や健康のために妥協したり、諦めたりはできないからです。それに体が温かいと、心にも余裕が生まれますよね」

体を冷やさないことを第一に考える香港人は、スイーツも例外なし。漢方スイーツとして有名な亀ゼリーも、ホットとアイスが選べます。(海天堂)

楊さんは、「香港マダム」になろうと言っているわけではないといいます。でも、中医学の知識や東洋の知恵は、同じ東洋である日本人の価値観に通ずるところもあり、参考になることが多いのも事実。楊さんが香港での生活が長くなり、日本人女性のことを客観的に見られるようになって、「もったいない!」と思うことが増えたそう。

「香港女性は自信満々で元気いっぱい。日本人は謙虚で優しく、とても努力家なのですが、どこか自分に自信を持てずにいます。だから本当は潜在的な魅力にあふれる日本女性が、香港マダムのように自分を一番魅力的に見せる方法を身につけたら、もっと魅力的になれると思うんです!」

そんな思いから、楊さんが書き上げたのが、『香港美人(マダム)が教えてくれた 美しさが永遠に続く6つの法則』(光文社)。香港在住約30年の経験から、目先の変化や効果に頼らず、心身ともにバランスの取れた女性になるために読み解いた“不変の法則”が紹介されています。

読み進めると、漠然とした「キレイ」を目指すのではなく、自分にしかない「キレイ」を磨き、輝かせるヒントがたくさん! 香港も日本も、根底には同じ東洋の価値観が流れていることも実感できます。

 

『香港美人(マダム)が教えてくれた 美しさが永遠に続く6つの法則』(光文社)
楊さちこ著¥1300(税別)

PROFILE

吉川明子/出版社、編集プロダクションなどを経てフリーへ。週刊誌、雑誌、Webサイトなどで執筆、編集を行う。旅と食べることと本が好き。人生の3分の2は減量のことを考えてきた。