『幸せなひとりぼっち』
監督:ハンネス・ホルム 出演:ロルフ・ラスゴード、イーダ・エングヴォル、バハー・パール
配給:アンプラグド 新宿シネマカリテほかにて公開中

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仕事もお家まわりのこともまったく終わりが見えず、ドタバタの毎日を過ごしている方も多い時期かと思います。ちょっと落ち着いて映画館に行ける時間がとれたら、“今年最後の1本”には何を選ぼう? と考えている方におすすめしたいのが、スウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』。笑って泣いて心にぽっと灯がともる、忙しない年の瀬にとてもいい時間が過ごせたなぁと思える作品です。

 

主人公のオーヴェは、レジの店員からご近所さんにまで、俺ルールから逸脱している人にお説教しまくる偏屈じいさん。勤務先をクビになったのをきっかけに、最愛の妻が待つ天国へと旅立とうと自殺を企てます。ところがお向かいに引っ越してきたイラン人女性と家族たちとの思いがけない交流がはじまり、自殺どころではなくなってくるのです。

 
 

ご近所さんの頼まれごとに文句を言いつつ何だかんだと応えてあげる、ツンデレ的優しさを持つオーヴェは最高に愛すべきキャラクター。「車は絶対にサーブだ!」というこだわりゆえの偏屈ギャグには、いちいち大笑いさせられました。終盤に向けて、オーヴェがなぜこれほどまでにいかめしい男になったのかが、回想シーンによって明かされていきます。彼が胸の奥に秘めていた後悔も含めた人生の道のりに触れて、涙が止まらなくなってしまいました。

 

“つながる”ことはときに面倒くさいけれど、やっぱり他者と言葉や心を交わすことでしか、見えてこない世界があります。そのことを決して大きな声ではなく、人は最後はひとりぼっち。でもだからこそ、生きているうちは誰かとお茶を飲んだり、おしゃべりする他愛ない時間があったほうが、きっと楽しいよ! ……くらいの温度で語りかけてくれるところが、とてもいい湯加減なんですよね。オーヴェの奥さんが本当に太陽みたいな素敵な女性(さっぱりとしたショーットカットに赤い口紅の何て似合うこと!)で、彼女からの「過去にとらわれずに今を生きて」というメッセージも、胸にすとんと落ちてきました。

 

 

PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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