この椅子は、HIROSHIMA(ヒロシマ)という名前です。広島県にあるマルニ木工という日本の会社が製作しています。デザインは、世界的デザイナーの深澤直人さん。工場を見学したのですが、最後の仕上げは職人さんの手作業でした。通常はウレタン塗装ですが、これはオイルフィニッシュ仕上げなので、時間がたつと色が変わっていきます。座面のファブリックは、ミナ・ペルホネンの皆川明さんがクヴァドラというデンマークのブランドとコラポレーションしたもの。たくさんの手仕事がひとつになった椅子です。

家族は素晴らしい存在ですが、ときどき「自分だけの居場所」が欲しくなります。私の場合、それを実感したのは、母の介護で実家に戻っていた時でした。育った家ではないので、自分の部屋もありません。見つけたのは、ダイニングテーブルの一角でした。パソコンを広げたり、ほっとお茶を飲んだり。そんな時、大切なのは、テーブルよりも椅子です。思わず座りたくなるくつろげる椅子があれば、小さくても「自分の居場所」になります。そう気がついて、自宅でも一脚だけ、特別な椅子を購入しました。手触りのいいアームと幅広の座面、低めのシートハイ。自宅では、ソファも自分の部屋もあるのですが、もうひとつ、大切な「自分の居場所」ができました。

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