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2017.3.13

映画『未来よ こんにちは』~ちょっぴり不幸な主人公の“前向きなあきらめ感”が、私たちを勇気づける!

 

『未来よ こんにちは』
監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:イザベル・ユペール、アンドレ・マルコン、ロマン・コリンカ、エディット・スコブ
配給:クレスト・インターナショナル 3/25よりBunkamuraル・シネマほかにて公開

©2016 CG Cinéma · Arte France Cinéma · DetailFilm · Rhône-Alpes Cinéma

 

ボトックスとは無縁なんだろうなぁということがわかるシワが刻まれた素顔が美しくて、何だかニヒルな味わいもあり、かと思えば少女のようなお茶目な笑顔を見せることもある。レイプ被害者を演じた『エル』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、60代に入ってますますチャレンジングな役柄に挑むフランス人女優、イザベル・ユペールの“無双”感が止まりません。もうすぐ日本公開される主演作『未来よ こんにちは』もユペールがヒロインを演じているからこその説得力に満ちた映画になっています。

 
 

主人公は、パリの高校で哲学教師として働いているナタリー。忙しくもそれなりに幸せに暮らしている彼女の日常のバランスが、少しずつ崩れていきます。連れ添ってきた親友のような夫からは好きな人ができたと告げられ、認知症の症状が出はじめた母は施設で他界。長年のつきあいがあった出版社との契約も終了し、目をかけていた教え子とも隔たりができてしまうのです。

 

ドラマチックな描写に寄せることもできる題材ですが、ナタリーを悲劇のヒロインとして描くようなシーンはありません。ときには涙を見せて言葉を詰まらせることもありますが、彼女は“おひとりさま”になっても、日々を自分の足で当たり前に歩いていきます。華奢な体に寄り添う心地よさそうなファッションに身を包み、ちょっぴりせかせかと歩く姿が、ナタリーの性格や生活力を象徴しているかのよう。家を出た夫が無神経に買ってきた花束を腹立ちまぎれに捨てに行き、ゴミ袋がわりにしたあの青いIKEAのキャリーバッグを取りに戻るところも、たくましくてかわいくて大好きなシーンです。

 

パリ、ブルターニュ、フレンチ・アルプスの光を浴びながら、哲学と猫とともに、過ぎていく時間に逆らわず生きるナタリー。考えてみれば熟年離婚も親の介護も、周囲を見渡せば人生の終盤で少なくはない人たちが向き合っている問題です。もしも自分がそれらと向き合う日がきたら、ナタリーの生き方からヒントをもらえるかもしれません。勇気凛々なエネルギーとはまた違う、“人生ってこんなふうに続いていくもの”という前向きな諦念が、未来の自分を励ましてくれるような気がします。

 

PROFILE

細谷美香/1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。
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