塗師という作り手でありながら、熟練の使い手でもある赤木明登さん、ギャラリストであり、洗練された選び手でもある赤木智子さんが、いま、行く価値のあるギャラリーについて考えた本が5月25日に、『うつわを巡る旅』として刊行されました。

能登をご紹介した第1回に続き、今回は倉敷の情報をご紹介します。

 

民藝に興味があるなら。
倉敷で訪ねたい場所

倉敷にほど近い街で育った明登さんにとって、倉敷民藝館はどこに何があるか思い浮かべられるほど通った場所。その初代館長であり、染織家でもあった外村吉之介さんが看板を書いたお店が、「融 民藝店」

「・・・・・・通うたびに、いつもウィンドウの中が気になる。いつごろからだろうか、其処には李氏朝鮮時代の文箱が飾られていた。幅が四十センチくらい。高さと奥行きが二十五センチくらいだったろうか。野籠蓋の付いた、焦げ茶色の四角い箱である。正面には錆びた味のある真鍮製の金具が付いている。昔、朝鮮の貴族が自らの家系図を入れておいたものだと聞いたことがある。いつのまにかその箱がほしくて仕方がなくなっていたのは、魅せられて、恋してしまったからかなあ」(P40)

子ども時代のそんな片思いのまま、結局、文箱は手に入らなかったのだけど、明登さんが出版社を辞めて輪島の漆職人に弟子入りし、独立したときに作った作品に影響を与えたのはこの文箱だったそう。

酒津榎窯や倉敷堤窯など地元倉敷の日常使いに適したうつわや、花器、手織りの布、さらに明登さんが恋した朝鮮からのアンティークや李朝家具も扱っている。
倉敷ガラスの創始者、小谷眞三さんはすべての製作プロセスをひとりで行うのが特徴。「融 民藝店」では“小谷ブルー”の作品のほか、クリアなグラスなども揃う。

融 民藝店
岡山県倉敷市阿知2-25-48
tel. 086-424-8722

 

1948年に日本で二番目の民藝館として開館。地元岡山の倉敷ガラスや焼物、備中和紙、花筏、倉敷段通などのほか、世界から集めた民藝品は15000点以上。

倉敷民藝館
岡山県倉敷市中央1-4-11
tel. 086-422-1637

 

 
好きが高じて、苔と亀についての本を出したという店主の田中美穂さん。「すごくマニアックにセレクトしてそうに見えるのに、実はお客さんが持ち込んできた本を置いているだけ。でもすごくいいじゃないですか、あの感じ」と明登さん。

蟲文庫
岡山県倉敷市本町11-20
☎086-425-8693


倉敷を訪れたら、ぜひ足を運んでみてください。
次回は、赤木ご夫妻の愛用しているうつわをご紹介します。

『うつわを巡る旅』【能登編】はこちら>>
 

 

<新刊紹介>
『うつわを巡る旅 ほしいものはどこにある?』

赤木明登 赤木智子
A4 176ページ 1600円(税別)
講談社  
ISBN978-4-06-299873-4

赤木明登/あかぎあきと
塗師。岡山県生まれ。編集者を経て1988年に輪島へ。輪島塗の下地職人・岡本進のもとで修業後、1994年に独立。以後、輪島でうつわを作り続け、各地で個展を開催。現代の暮らしに息づく「ぬりもの」の世界を切り開く。著書に『美しいもの』(2006)、『美しいこと』(2009)、『毎日使う漆のうつわ』(2007/以上すべて新潮社刊)ほか。

赤木智子/あかぎともこ
エッセイスト。東京都生まれ。現代陶芸を扱うギャラリーで働いたのち、1987年に明登氏と結婚。ともに輪島へ。工房のおかみさん業の傍ら、2005年より、自身が使う食器や衣類などを展示販売する「赤木智子の生活道具店」を各地のギャラリーで開催。著書に『ぬりものとゴハン』(2006/講談社)、『赤木智子の生活道具店』(2010/新潮社)、明登氏との共著で『うちの食器棚』(2013/新潮社)。


撮影/青砥茂樹(講談社) 構成・文/山本忍(講談社)