2017.7.4

リトアニアの手仕事と暮らす

自然の色が美しい、リトアニアの伝統的なヘーゼルナッツの籠。今もキノコ採りには必ずこの籠を持つそうです。大きさもいろいろあり、和室にも合いそうな風合い。

リトアニアはヨーロッパの北東、バルト海に面したバルト三国のひとつです。

北からエストニア、ラトビア、そしてもっとも南に位置するのがリトアニア。人口約290万人、国土は北海道の約80%の広さです。

わたしがリトアニアの手仕事を知ったのは、しばらく前に友人の営むギャラリーで、リトアニアのデザインとクラフトを紹介する展覧会を観た時でした。

リトアニアはリネンで有名で、麻好きのわたしは、ワクワクしながら出かけていきました。

そして、そこで出会ったリネンのレースや織物の、初めて見る精緻で澄んだ美しさに息を呑みました。

こうべを垂れて黙祷したくなるような、静かな敬虔さと地に足の着いた力強さに満ちていたのです。

日本の北国で作られる刺し子や籠に似た空気も感じ、暮らしのなかにごく自然になじんでくれそうな予感。

コースターや小さな籠をいくつか連れ帰り、リトアニアの空気を部屋の中に招き入れました。

その展覧会を支えたのは、リトアニアのデザインやクラフトを扱うLTshopを営む松田沙織さん。

その後、年若い友人を介して松田さんと出会い、彼女の熱く純粋なリトアニア愛に感動し、ご紹介したくなりました。

おしゃれにもインテリアにも

松の根で編んだ籠。LTshopはリトアニアの伝統的なデザインを大切にしているため、オリジナルデザインを作らないできたそうですが、今年初めて、この台形の、ハンドバッグとしても持ちやすい籠を作り手のイラさんとアナさん姉妹に特注しました。日本では籠ブームですが、リトアニアでは籠は働くための生活道具。ファッションとして持つという発想はないため、これを機にリトアニアの若いひとたちが自国のクラフトを見直してくれたら、と松田さん。トップの写真のヘーゼルナッツの籠にも台形のものがあります。
ベリー摘みのための籠は、カラフルなビニールコードで編まれたもの。ベリーの汁がついても拭けるようにとのことですが、なんとも可愛い。鍵や、なくしやすい日々のこまごまとしたものを入れて、玄関やベッドサイドに。

光を呼ぶレース

  • リシュタス・ティンクラスと呼ばれる、麻糸を束ねて結んだリネンレース。作り手はヤニナさん。下が晒した白、上が亜麻色です。暗く長い冬、電燈もない時代に、窓から差し込んでくる雪明りで見るこの結び網の模様は、神秘的な光を湛えて人々の心を慰めたのでしょう。現在、作り手がほとんどおらず、松田さんは3~4年もかかって「手芸のスーパーおばあちゃん」であるヤニナさんに出会ったそうです。
  • わたしのお茶の時間。漆の丸盆に亜麻色のリュスタス・ティンクラスを敷き、愛用している英国人作家スティーブ・ハリソンのマグカップと村上躍さんの急須、そして白樺の皮を巻いたリトアニアのキャンドルを置いてみました。
  • レザーカットの工房が作っている木のコースター。これもリトアニアレースの精神が息づいているような。
     

ナイーブな作家たち​

ヴィガンタスさんの手描きの鳥笛。リトアニアでは、16世紀頃から玩具としての鳥笛が作られてきたそう。ヴィガンタスさん流の精緻な手描きドット仕上げが楽しい。
深い森の中に、お母さんとふたりきりで暮らすルータ・インドラシューテさん。柔らかな優しい色遣いと、物語のある絵柄に夢心地になっていると、突然その鋭い感性に心臓をギュッと掴まれるような場面が目に飛び込んできます。ただ甘くきれいなだけではない、ちょっとヘンリー・ダーガーにも通じる無垢さの毒。そのまなざしに嘘がない。だからこそ、本物なのだと思います。これだけ絵柄があっても、花を活けるとふわりと受け止めてくれるところも素敵。

祝祭のモビール、ソダス

ソダスは、ストロー状に穴の開いたライ麦の茎に、麻の糸を通して幾何学模様に組んだ、リトアニア伝統のモビール。天からのメッセージを運ぶと言われる鳥のモチーフが編み込んであるものもあり、模様を描いた卵を載せるところも。新しい家族を迎えるとき、卵を載せて飾り、祝います。正八面体は森羅万象を意味し、吊るしたモビールが自然に回らないと、そこは気が悪いということに。それにしてもなんという美しさでしょう。暗い部屋の中で、月明かりに照らされたこれを目にした時、人びとは光の存在を強く感じたに違いありません。レースにしてもコースターにしても、リトアニア人の幾何学模様は「透かし編み」「透かし彫り」のように、光を取り込む技法だったのかもしれませんね。

日本人と共通する心

舞台衣装のデザインを志して美大で学んだ松田沙織さんが、リトアニアに惹かれたきっかけは、舞台を観ようと初めての旅をしたとき。たくさんの奇跡のような出会いがあり、その感動を何かの形で日本に伝えたいと考えたからだそうです。リトアニアと日本の双方が互いを深く知るには、物を介在させるのがいい、と今から4年半前に、青山キラー通りにLTshopをオープンしました。まだ30代半ばの松田さんは、日本代理店でもあるmukuのワンピースが似合う少女のような女性。1年365日、ほとんど休みなく仕事をし、リトアニアの文化を伝えています。大国に囲まれ、翻弄されてきたリトアニアは、旧ソビエト時代を経て1991年に独立を果たしたばかり。まだ商業化も産業化もしていないクラフトやデザインは、手をかけて作り込むところと自然のままにしておくところとのバランスが、日本のもの作りとも共通するところがあります。それを自分の目で選んで、いろいろな使い方をしてもらえたら、と松田さん。
リトアニアリネンがさらさらと肌に心地よいmukuのコレクション。二の腕が細く見えるカッティングや着るごとになじむスカートなど大人にふさわしいラインナップが。
渋谷方面から青山3丁目の交差点を左折して、しばらく行った右側、1階に「グランピエ」という古くからの民芸品店があるビルの二階です。松田さんが出張で不在の時や臨時休業などはインスタグラムでお知らせが。伊勢丹やIDEEショップはじめ、全国でフェアも。ここに掲載した商品についてはメールにてお問い合わせください。現在、美しい釉薬の色が特徴的な「越境の陶器展」を7月16日まで開催中です。