2017.9.8

わらしべ読書で
母であり祖母である幸田文さんに出会う

孫の青木奈緒さん、娘の青木玉さんを通して幸田文さんの面影を読む読書の秋でした。幸田文著「きもの」「きもの帖」は以前読んだもの。祖母が遺してくれた老松刺繍の着物とともに

夏休みに入る直前、長野の友人から小包が届きました。

そこにはお手紙と、ドライになりかかったラベンダーと、一冊の本。

「きものめぐり 誰が袖 わが袖」(著/青木奈緒)

9月に入り、子供たち不在のリビングでようやくこの本に向き合うことができました。本を開いた瞬間に匂った、ラベンダーの甘く爽やかな香りとともに。

著者の青木奈緒さんは幸田文さんの孫に当たる方です。
この本は祖母である幸田文さんとの想い出と「これから先、着物はどうなるのだろう」というテーマを胸に抱え、日本各地の着物の現場を旅する紀行エッセイでした。

挿入されているカラー写真にうっとりし、写真がなければそばに置いたスマホで検索した画像に感動。素晴らしい反物を目の前にした時の奈緒さんの高揚感はこちらにも伝わってきました。

染めや織り、果てはインド更紗やデジタルプリント……。伝統を守りながらも今を見つめる方々が大切にする織りの反物や染めの技術。青木奈緒さんを筆頭に、着物を愛する人たちから着物へのラブレターにも近い一冊でした。

少しだけ書かれていた幸田文さんとの思い出話をもっと知りたい、と図書館へ。

見つけた一冊は「幸田家のきもの」(著/青木奈緒)です。


着物にまつわる幸田文さんとの想い出と、遺された着物のお話です。

「お祖母ちゃんが支度をしてあげるからね」
「金魚みたいでかわいいね」
「嫌なとことろがないように、お祖母ちゃまがいい塩梅にしてあげる」

この本に書かれていたお祖母ちゃま(幸田文さん)は、いつだって孫の奈緒さんに甘く優しく語りかけていました。


中でも一番面白かったエピソードは「十三参り」の章。

奈緒さんはお母様の青木玉さんと色違いの鹿の子絞りの着物をお祖母ちゃまに準備していただきました。

13歳といえば子どもから大人に変わる時期。「母に憧れる娘」時代の終盤ではないでしょうか。そのタイミングで娘と孫に色違いの着物を選ぶ幸田文さん。着物を単なる「着るもの」としてだけでなく、奈緒さんの微妙なお年頃の時期も考慮して選んでくれたのです。


そして当日、着物を着せながら幸田文さんは奈緒さんに尋ねます。
「どこか痛かったり、きついところはないかい」と。

いつもの体で話しかけてもらった奈緒さんは何の気なしに、
「帯が少しきついの」と答えます。

きっとお祖母ちゃんなら簡単に解決してくれると思ったのです。

すると幸田文さんは
「ああ、わかったお祖母ちゃんがちゃんと具合よくしてあげるからね」と言って何の躊躇いもなく大きな裁ちばさみで帯を真っ二つに。即席で付け帯を完成させたのです。

そ、それ、新品のおろし立てですよ!?

思わず読んでいて突っ込みましたよ!

なぜ幸田文さんは帯を切ったのか。そこには幸田文さんの着物への知識と孫娘への深い思いやりがありました。それは是非読んでください。

読み進めるほどに以前読んだ幸田文さん最期の長編小説「きもの」を思い出しました。着心地にうるさい主人公「るつこ」の幼少期から結婚するまでを描いた物語です。私は主人公よりも着物を通してるつこに生き様を説く祖母に惹かれて読み終えたことを覚えています。「きもの」に登場するお祖母様は幸田文さんご自身だったのかも……。1つの物語を通して「着物なんたるか」を遺したかったのかもしれません。

 

遺された着物に関しては幸田文さんの娘さんでいらっしゃる青木玉さんの「幸田文の箪笥の引き出し」にさらに詳しく書かれてありました。

母としての幸田文さんは祖母である幸田文さんとはまた違いました。執筆の進行具合で変わる感情を玉さんには隠さない文さん。時に厳しく、時に優しく。母娘の関係は濃厚で密なものでした。
色鮮やかな振袖や婚礼衣装などを用意してくれた母の想い出から幸田文さんが倒れた日のことまで……。
最後の章は胸にこみ上げるものを抑えながら、丁寧に時間をかけて読み終えました。私も娘であり、母親である立場だからでしょうか。

着物の写真がたくさん載っていたのもとても嬉しかったです。

大切な一冊になりました。

 

パンの発酵を待つ間に読書。なんて贅沢なんでしょう! 夏休み頑張ったご褒美の時間でした。甘党な娘にチョコマフィン、甘いものが苦手な息子にチーズマフィン、大人には抹茶マフィン 

わらしべ長者のように一冊の本から始まった「わらしべ読書」。この数冊のおかげでとても贅沢な時間を過ごすことができました。