2017.9.14

映画「ノクターナル・アニマルズ」〜トム・フォード の世界

デザイナーとして、そして様々なブランドのディレクションをこれまで成功に収めたトム・フォード氏。クリエイティブな才能はとどまるところを知りません。

前作「シングルマン」に続く二作目「ノクターナル・アニマルズ」がこの秋待望の上演となり、一足早く試写を拝見。前作のシングルマンを超えた!と(勝手に)思うほど、完璧な映像美とストーリー展開に心が震えました。

映画「ノクターナル・アニマルズ」は, 11月3日よりTOHOシネマズほか全国ロードショー。エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホールほか、豪華キャストの共演も見逃せない作品。

人も羨むような大邸宅に住み、完璧に見える1組の夫婦。しかし、二人の関係は冷え切り、もはや愛など存在しない。青白く光る美しい妻の顔には生気というものはほとんどなく、どこか哀しみや空虚感さえ漂います。

そこへ届いたのは元夫から彼女へ贈られた一冊の本。その内容は、元妻に対する歪んだ愛の表現でもあり復讐を込めて描かれたもの。見捨てた元夫からの愛憎に、愛を失った女の心は深くかき乱され、クライマックスへ・・・。

冒頭のシーン。ギャラリーオーナーを務める主人公スーザン。成功を得てブルジョワなライフスタイルを送る彼女だが表情はいつもどこか哀し気。黒のミニマルなドレスを纏った彼女とギャラリーの背景との対比が、彼女の心の闇を映しているかのよう。

この物語は、主人公の「現在」と「過去」そして、元夫が送ってきた「小説」の3つのストーリーが複雑に絡み合います。

「小説」の中に描かれた残虐な行為は、裏切られた元夫の荒んだ心の表れなのか?「小説」と「現在」と「過去」の中を右往左往する主人公の心の描写や最後まで捉えどころのないストーリー展開は、観客までも翻弄し、息することさえ苦しくなるほど・・・。

 

そして細部までこだわり抜かれた演出、美術、衣装も重要な見どころ。

冒頭から「肉魂」が揺れる巨漢女性の裸体ダンスにまず衝撃が走ります。それはこの物語が語る人間の”究極の美と醜”そのもの。

コンクリートに覆われた完璧な邸宅は、富の象徴の中に冷え切った夫婦の関係を浮き彫りにし、静寂で完璧に設えた部屋は彼女の孤独を美しく演出しています。

 
背景の一つにおいても徹底的にトム・フォードの美学が計算し尽くされています。

衣装を手がけたのは、アリアンヌ・フィリップス。有名デザイナーが手がける映画だとついつい登場人物の衣装に目が奪われがちですが、ブランディングによって観客が映画に入り込めなくなるのを防ぐため、あえて「トム・フォード」を使わない方針で、オリジナルで製作されました。決して主張することなく、映画の中の登場人物の心情や役どころの表現の一つとして巧妙に溶け込んでいます。

ありがちな“おしゃれ映画”に決してとどまらないのが、作品としてのクオリティーの高さを感じさせます。

前作「シングルマン」で監督として才能を発揮したトム・フォード氏。今回「ノクターナル・アニマルズ」でも監督、脚本、製作全て自身で手がけマルチな才能を発揮。

多くのことを語らずとも、視覚で訴え、完璧な演出で「魅せる映画」としての力を発揮するトム・フォードの世界。「神」と言わざるえないほどのクリエイティビティーは今後もどんな作品や美しい世界を創造してくれるのか・・・ますます期待が高まります。

この秋、皆様にもぜひご堪能いただきたい映画です。