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セックスの価値観をリセット②「セックスレスの原因と対策」

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性とセックスを探究するAV男優の森林原人さんに、“セックスと幸せの関係”についてお伺いする3週連続インタビュー。第2回目は「セックスレスの対処法」についてお話しいただきました。

今回、森林さんが提案してくださったのは、セックスを家庭の外に求める方法。「なるほど!」と共感できるか、「あり得ない」と感じるか。そして「なぜそう感じたのか?」を掘り下げてみると、自分のセックスの価値観を見出すきっかけともなるかもしれません。

「現行の日本の婚姻制度は明治時代からのものでしかなく、今後変化していくべきものだと思っています。また、恋愛結婚は、“感情×制度”というまったく性質が違うもの同士の組み合わせに無理がある。“思考×制度”であるお見合い結婚の方が、よほどスムーズに続けていけるかもしれません。」


「結婚・恋愛・セックス」
三位一体には無理がある


−−− 「日本の夫婦の約半数がセックスレス」というのは、すでによく知られた事実だと思いますが、とりわけ40代、50代にフォーカスすると、その割合はいっそう高くなります。日本性科学会セクシャリティ研究会が調査した2012年のデータによると、セックスレスの割合は、40代で54%、50代では75%(いずれも妻側の回答)。人生後半戦の性を充実させることの難しさを突きつけられるようです。

森林:そうですね、僕が思うに、この問題はそもそも現代社会における結婚のかたちに無理があるのではないでしょうか。いまの日本では、恋愛して結婚すると、その後は一生ひとりの人とセックスし続けなければなりません。結婚と恋愛とセックスを「三位一体」で捉えることが正解と思わされているのです。でも、恋愛は“感情”の出来事、セックスは“欲望”から生まれるもので、どちらも揺れ動くもの。一方、結婚は“社会制度”という固定されたものなので、結婚制度とは“固定されたもののなかに揺れ動くものを閉じ込めている”状態なのです。

恋愛感情が最高潮にある時は、「この人を一生愛し続けられる!」と思うかもしれませんが、本来、感情の変化は自分でも予測できないはず。そうして、結婚を維持するために、みんな少しずつ恋愛とセックスを諦めていく。感情と欲望の揺らぎには見て見ぬフリをしながら、でもだんだん「このままでいいのかな?」と疑問が湧いてくるんです。もちろん、奇跡的に三位一体が成立し続けるご夫婦もいらっしゃるかもしれませんが、僕が受けている性の悩み相談では、奥さんの方が悶々としているセックスレス問題はいくつも寄せられています。

−−− なるほど…、その奥さんたちは別に離婚したいわけではないんですよね?

森林:多くの場合、旦那さんは人生の大切なパートナーであるようです。きっとセックス以外のところで、信頼したり安心感を得たりして結ばれているのでしょうね。でもだからこそ、僕は、性欲から生まれたセックスは外に求めればよいのではないかと思います。旦那さんが満たせないなら、それは仕方がないことだからです。大切に思う気持ちだけで、勃起できるものでもないんです。社会通念上はルール違反かもしれませんが、日常に支障が出ないよう秘密を守り、それで家庭生活を円満に送れるなら、そういう選択肢があってもいいのではないでしょうか。

−−− 以前、ミモレでも「公認不倫」がテーマのコミックをご紹介したら、かなりのアクセス数がありました。夫婦がお互いに恋心やセックスを外で満たすことを認め合いながら、でも一緒に暮らすのは、いちばん感覚が合うこの人がいい、と。

森林:それはひとつの理想形ですね。相手のことをどれだけ大切に思っていても、それが欲情に繋がるとは限りません。人が欲情するには、好奇心や快楽の予感がガソリンとして必要なのです。ときめくのは外の人、信頼できるのは旦那さん。それは別々にできるはずなのに、社会の価値観が認めてくれないのです。

また、理想論と言われてしまうかもしれませんが、僕はやはり、本当は、そのことについて旦那さんと話し合い、とことん向き合えたらいいのにと思います。「あなたはとても大切な存在だけど、セックスはできない。だけど私のなかにはまだ欲望があるの」と。性欲は、男女を問わず強い人も弱い人もいますから、その点を認め合うのはとても大事なこと。男性は、性欲の強さで男らしさを競わない。女性には、“性欲は、はしたないものでも低俗なものでもなく、人間の根源的な欲求”だと受け入れてみてほしい。そこを共通認識としたうえで「他の人とセックスしたからといって、ふたりの信頼関係を壊すつもりはない。」ということをお互いに納得できると、先程のマンガのような「公認不倫」になっていくのでしょう。

 


性欲から始まるセックスと
愛情表現としてのセックスは別物


−−− 森林さんがおっしゃるように性欲を家庭の外に求めた場合、女性はセックスした相手に恋愛感情を抱いてしまうケースも多い気がします。

森林:それは、「愛情とセックス」が混在してしまっているからです。男性は比較的簡単にそこを切り離せますが、でも、女性だって切り離せるんですよ。

−−− 切り離せるでしょうか?

森林:切り離せます、絶対に。それは、僕が公私ともに多くのセックスを経験してきたなかで、相手の女性たちを見ながら気づいたことでもあるんです。確かにセックスの最中は、心も身体も気持ちよくなって心が動くことがあります。でも、その感情はその瞬間にしかないもので、それに気づくと引きずらなくなるのです。

−−− もう少し詳しく伺ってもいいですか?

森林:心というのは“いま”を感じる器官です。いまの気持ち、いまの呼吸、いまという一瞬はいまにしかなくて、そのいまは、感じるそばから過去になっていきます。

だから、セックスで心から繋がる一体感を味わえたとしても、満たされた気持ちはその瞬間だけに存在していたもの。「こんなに気持ちよかったから、彼は運命の人に違いない」と思うのは、ロマンチックな雰囲気に酔いしれているだけで、愛とは違うのです。

確かにセックスは、愛があった方が気持ちいいし、心も繋がりやすくなります。でもだからといって、性欲から生まれるセックスの可能性を否定したり、そこに罪悪感や後ろめたさを持ち込まない方がいい。女性が挿入欲を持ったって構わないんです。「愛=セックス」は公式としては美しいですが、とらわれすぎるとそれ以外の答えを認められなくなります。「愛≒セックス」くらいに考えておく方がいいですね。

「愛情とセックスが切り離せるということは、僕も最初は理解できなかった」と森林さん。20代で大恋愛をした時には、彼女以外の女性とセックスする自分が汚く思えて、一時的に男優を辞めたこともあったそう。「だけど、経験を重ねるうちに、愛情表現でないセックスは、たとえその瞬間に心が動くことがあったとしても、そこにはそんなに意味がないということがわかったんです。」
 
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