具体的に説明すると、現行では公的年金の受給開始年齢は原則65歳である。だが、本人の希望で60〜70歳の間で選択できる。受け取り開始時期を1ヵ月遅らせるごとに、受給額は0.7%ずつ増え、最も遅い70歳からもらい始めれば、受給額を42%も増やすことができる。

70歳の受給開始から12年弱で、原則として、65歳から受給を開始した場合と年金総額は等しくなるという試算もある。これに従うならば、70歳まで受給を遅らせて81歳以上生きればより多くの年金をもらえることになる。

女性は、かなりの人が100歳近くまで生きるとみられているのだから、得をする人は多そうだ。

ただし、男女を問わず、年金受給開始年齢を繰り下げようと思えば、その間収入の算段をしなければならない。それは「働けるうちは働く」とセットとなろう。

とはいえ、先述したように「定年女子」の再就職は難しいという現実もある。

定年後の好条件ポストを確保するには、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」を崩さざるを得ないが、長い時間をかけて築き上げてきたアンダーグラウンド組織の強固な結びつきを断ち切るのは難しい。ならば、メンバーに加わるのも手だ。

ただメンバーに加わろうといっても、ハードルが低いわけではない。そこで対抗策として考えたいのが、性別を超えたディスカッションの場を設けるよう会社側に働きかけることだ。

就業時間内になるべく多くの接点をつくっていくことで、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」に風穴を開けられれば、今よりキャリアアップしやすくなり、定年後の選択肢も広げやすくなる。

 

「起業」を考えよう


それでも、高齢になって自分らしく働ける仕事はなかなか見つからないものだ。そこでさらなる選択となるのが「起業」だ。起業ならば、「第2の定年」を心配しなくてよい。

男性に比べて勤務先からの情報が少ないという状況を見越してか、定年前に60歳以降も働ける会社に転職したり、起業に踏み切ったりする女性は増加傾向にある。

もちろん、そのすべてが安定的な収入に結びつくとは限らない。勝算があって踏み切る人ばかりでもないだろう。退職金をつぎ込んだ挙げ句、事業に失敗したとなったら目も当てられないと尻込みしたくなる人も多いだろう。

こうしたリスクをできるだけ減らすためには、定年間際になって慌てて準備をするのではなく、老後の長さを考え、むしろ若い頃から将来的な起業をイメージし、人脈づくりやスキルアップを計画的に進めるぐらいの積極的な発想がほしい。起業を念頭に置いて資格取得やスクールに通うのもチャンスを拡大する。

内閣府男女共同参画局の「女性起業家を取り巻く現状について」(2016年)によれば、女性の起業が最も多い年齢層は35〜39歳の12.1%である。次いで30〜34歳の10.4%だ。一方で55〜59歳以降も上昇カーブを描き、65歳以上も9.9%と3番目に高い水準となっている。

起業を志した理由のトップでは「性別に関係なく働くことができるから」が80.8%と最も高く、「趣味や特技を活かすため」(66.7%)、「家事や子育て、介護をしながら柔軟な働き方ができるため」(54.4%)などが男性に比べて大きくなっている。

子育てや介護に一段落ついたタイミングで、いま一度、「自分らしさ」を見つめ直し、「仕事と家庭の両立」を求めて起業に踏み切っている人が、すでに相当数に上っているということである。

女性の場合、78.6%が個人事業主である。起業にかけた費用や自己資金をみても、50万円以下が25.2%とトップで、比較的低額で開業する傾向にある。経営者の個人保証や個人財産を担保とはしていないとした人も73.6%を占め、手元資金の範囲で堅実に始めるという人が多い。肩肘張らずに考えれば、案外、始めやすい。

女性は男性に比べて子育てや介護といった生活ニーズに根ざした「生活関連サービス、娯楽」(18.8%)、趣味や前職で身につけた特技を生かした「教育、学習支援」分野での起業が多いのも特徴の一つだが、今後、勤労世代が減っていく中で、生活関連サービスのニーズは大きくなる。

こうした分野で小回りのきくサービスを展開する企業が増えることは、社会全体にとってもプラス効果が期待できる。

大きなリスクを背負わない人が多い分、女性起業者の起業後の手取り収入は少なく、月額「10万円以下」が26.7%、「10〜20万円以下」が22.5%と、半数近くは20万円以下にとどまる。だが、これでも長い老後を踏まえて、「老後資金の蓄え」、「年金の足し」として考えれば大きい。

女性に限らず、男性だって、長い老後を、いかに「自分らしく」生きるかは大きなテーマであろう。現役時代から入念な準備を進めておかなければできないことは多い。少子高齢社会にあってのライフプランづくりは、実に計画的でありたい。

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河合 雅司/ジャーナリスト・高知大学客員教授
1963年、名古屋市生まれ。ジャーナリスト、高知大学客員教授(専門は人口政策、社会保障政策)。中央大学卒業。内閣官房有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員、拓殖大学客員教授など歴任。2014年、「ファイザー医学記事賞」大賞を受賞。主な著作に『日本の少子化 百年の迷走』(新潮社)、『未来の年表』、『未来の年表2』(講談社現代新書)、『未来の呪縛』(中公新書ラクレ)などがある。