三人の王子から見える、当時の女性の自立


もう一つ見逃せないのが、世代ごとに配されていた、おしんに寄り添う王子様の存在だ。少女期に出会った脱走兵の俊作(中村雅俊)、成人期が活動家の浩太(渡瀬恒彦)、そして夫の竜三(並木史朗)だ。そろってなかなかの二枚目であったが、ここではその容姿よりも、おしんと男性たちの関係について考えてみたい。

1 脱走兵の俊作
最初の王子である脱走兵の俊作とは、奉公が嫌になって飛び出した少女時代に出会っている。俊作は短い期間ながらも、おしんに教養を授けた男性である。与謝野晶子の『君死にたまふことなかれ』を心をこめて読み聞かせるなど強く戦争批判をしており、おしんの戦争観に影響を与えていることも見逃せない。

2 活動家の浩太
俊作との出会いによって、誰もが生きる権利のあることを実感し成長したおしんは、次に活動家の浩太と出会う。浩太は地主が小作人から搾りとった米で贅沢している社会を打破しようとしており、おしんは彼の言葉に感化される。この出会いはおしんの次なる成長につながっているものの、男の言うことに意外とあっさり感化される姿は、この時代がまだ、女性が自立してものを考えられる時代ではなかったことも伺わせている。

3 夫の竜三
佐賀の旧家の三男坊であった竜三は、おしんの人柄に惹かれ、家も店も捨てておしんと一緒になる。竜三は戦後、戦争に協力した罪を償うため自決をする。脚本を書いた橋田は、最終的におしんに「竜三を立派だと思う。苦労もあったが、一緒になれてよかったと思う」と述べてさせている。橋田は実生活でも、夫がいない時間にだけ仕事をし家事もしっかりこなすなど、夫を常に立てており、彼女の人生と作品は全くブレていなかった。そういう意味では、橋田の人生こそ朝ドラになる……と思っていたが、実際に1994年に『春よ、来い』で自叙伝的朝ドラを書いて放送されている。

 

『おしん』は女性の描き方の転換作となった


こうして振り返ってみると、本当におしんは辛抱していたのか、ということが論点となってくる。評論家の宇野常寛は「おしんは男性社会の、家父長的な支配から逃れられなかったのだと思う」と述べており、おしんが逃れられなかったものから脱した画期的なドラマが、後に放送された『カーネーション』であるとも指摘している。


しかし『おしん』が好視聴率を獲得した1983年は、カフェバーやDCブランドが流行り、「軽薄短小」という言葉が世間をにぎわせている。2年後の1985年には男女雇用機会均等法が制定され、女性の社会進出が進み、経済はバブルの頂点へと突き進んでいた。そんな時代に、『おしん』を通して、明治から戦後にかけての女性の生き方が存分に描かれたからこそ、それに変わる新しい女性の生き方を描いたドラマが今生まれているとも言えるだろう。

 

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