自宅介護、よくよく覚悟召され


2014年には義母を自宅介護で看取った朝井さんだが、介護においても「頑張りすぎない」くらいがちょうどいいと語る。

 

「直木賞をもらって連載のお仕事もたくさんいただいていたときに、介護の忙しさもピークを迎えて。むろん夫や夫のきょうだいと一緒に取り組んでいましたが、当時は10kgくらい痩せましたねえ。今は取り戻しすぎて服が入らへんのだけど(笑)。自宅介護を望む方は非常に多いですよね。経験者として言えるのは、とにかく、よっぽど覚悟がいりますよってことです。
好きなご飯を食べられるのも最後かもしれないと思うと、好物の筍が出たらゆがいて食べさせたいでしょ。そうやって心を尽くすけれども、その生活があと3ヵ月続くのか、3年なのかわからない。だからあんまり最初からアクセル踏んだらあかん。頑張り過ぎたらあかん。で、プロの手助けなど使えるものはフルに使って煮詰まらないようにしてほしいですね。
あと、子どもはぜひ介護に参加すべきだと思います。老いで人はどうなっていくのか、日々おじいちゃんおばあちゃんの肌に触れていると状態が変わっていくのがわかります。死は生と同じくらい大事なこと。だからこそ机上ではなく、身をもって知ってほしいですね。特に若い男の子には、積極的に参加してほしいなあ。介護ってほんまに力仕事なので。
うちにはまだ健在の義父に私の両親を合わせて3人、22歳の猫と14歳の犬もいます。もはや老老介護の域に入っているので、次はまた新たな作戦を練ります(笑)」

 

損を怖がると、勘が鈍る


どんな状況でも笑いを忘れず、気風のいい朝井先生。取材当日のワンピースは背中にスリットの入ったデザインが印象的で、思わず「素敵ですね」とお声がけすると、「中にヒートテック着てるの見えてるけど、まあええかと思って」と、茶目っ気たっぷりに答えてくれました。
そして最後に改めてチャレンジする勇気の持ち方についてお聞きすると、こんな答えが返ってきました。

 

「結果やリターンを考えて動くより、“今”やることが大事なんです。なんでも今、今日の積み重ねでしかないですからね。今日はじめたことがお金になるのか失敗するのか、そもそもやって得はあるのか……そんなことは考えなくていいと思いますよ。皮算用してことごとく失敗してきた私が言うからほんまです(笑)。
そうそう、今はみなさんスマホですぐ調べはるでしょ。映画でも本でも、レビューを見てから観たり読んだりする。時間やお金を損したくないんですよね。でもね、損や失敗って大事なんです。たまには怪我しないと、勘が鈍ります。勘って非常に身体的なもので、我々は動物ですから、転んだり失敗したりしないと勘は磨けないんです。
私はスマホを持ってないから、自由ですよ。ノートパソコンも持ち歩かないので、出張中の連絡手段はガラケーのみ。みんなに迷惑かけてますけど、江戸時代に較べたらどれだけ便利なことか(笑)。自分流に、損得を考えず、今、はじめてみてください」
 

土曜時代ドラマ
『ぬけまいる ~女三人伊勢参り~』
NHK総合にて毎週土曜日 午後6時5分より放送中

【出演】:田中麗奈(お蝶) ともさかりえ(お以乃) 佐藤江梨子(お志花) 【主題歌】 竹内まりや「今を生きよう(Seize the Day)」

 

 

<書籍紹介>
『ぬけまいる』

著者  朝井 まかて 講談社文庫 770円(税別)

一膳飯屋の娘・お以乃。御家人の妻・お志花。小間物屋の女主人・お蝶。若い頃は「馬喰町の猪鹿蝶」と呼ばれ、界隈で知らぬ者の無かった江戸娘三人組も早や三十路前。それぞれに事情と鬱屈を抱えた三人は、突如、仕事も家庭も放り出し、お伊勢詣りに繰り出した。てんやわんやの、まかて版東海道中膝栗毛!


写真/塩谷哲平
取材・文/小泉なつみ
構成/柳田啓輔

 

朝井まかてさんインタビュー 前編はこちら>>

 
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