鎌倉は冬もまた美味しい…


鎌倉には、季節ごとに食べたくなる味があり、それを甘糟さんは「味覚カレンダー」として、著書『鎌倉の家』で紹介しています。その『鎌倉の家』から、前回の<春夏編>に続き、今回は<秋冬編>の美味しい店をご紹介しましょう。

 10月 
「ハウス オブ フレーバーズ」のマロン・シャンテリー

前回は苺のショートケーキの原型となったケーキをご紹介したこちらのお店。「鎌倉山の谷に浮いているような木の葉型の建物は寡作で知られる建築家・齋藤裕氏によるものだ。鎌倉山に投げ出されたような空間で、店内もまた独特。私はこの建築物で曲線と光の雄弁さを知った。」(『鎌倉の家』より)
10月になると必ず食べたくなるという期間限定の「マロン・シャンテリー」。「注文を受けてから何度も裏ごすという栗はふんわり、そしてしっとり。中に皮をとった巨峰が隠れている。それから空気のように軽い生クリーム。すべてがお互いを引き立てあっている。味わいは濃厚なのに…」(『鎌倉の家』より)


 10月 
「イチリン ハナレ」の白子麻婆

こちらは『鎌倉の家』では紹介されていないが、甘糟さんの秋の必須の味。北鎌倉と並ぶお屋敷街・扇ヶ谷の坂の中腹に佇む日本家屋で、カウンターのみ26席の店内です。
鎌倉では貴重な中華のお店。甘糟さんが特に気に入っているのは「白子麻婆」で「最初に食べた時は豆腐と白子というギャップに驚きました」とのこと。

 

 

 11月 
「田茂戸」のひれ酒と料理

田茂戸(たもと)は甘糟さんがお母様や大切なご友人と訪れる、なかなか予約の取れない日本料理店。ミシュラン一つ星を獲得した店で、旬の食材を使用しており、しっかり出汁のきいた滋味深い和食が味わえます。
「長谷の日本料理「田茂戸」のメニューに「ひれ酒」という文字を見ると、いよいよ今年も残りわずかなのだなあと実感する」(『鎌倉の家』より)


 1月 
亀の翁

「元旦には、大切にとってある日本酒『亀の扇』をあける。父はこのお酒を『おいしい水のよう』といっていた。新年に汲む井戸水を『若水』というそうだが、家の若水は『亀の扇』である」(『鎌倉の家』より)


 2月 
「鎌倉山田屋」の天青

立春の日には、山田屋酒店に茅ヶ崎・熊澤酒造の「天青」朝しぼりを買いに。甘糟家にはさまざまな「天青」がありますが、こちらの朝しぼりは、火入れしていない微発砲の原酒。甘糟さんにとっては「春待ち酒」としての味なんだそうです。

「おいしいもののカレンダーをつけていると、一年があっという間だ。東京に部屋を借りていた頃は、新しいことや変わったことばかりに気を奪われていた。鎌倉の家に戻ってきて、毎年同じことをするのが心地よくなった」(『鎌倉の家』より。)

鎌倉には、ゆったりと数百年の時の流れに思いを馳せたり、繰り返される季節の味をじっくりと楽しむ豊かさが、当たり前のように根づいています。鎌倉に惹かれる人が多いのはそんなこともあってのこと。この秋は『鎌倉の家』を読んで、そこに暮らしているかのように鎌倉の街を散策してみるのはいかがでしょうか。

【イベント告知】11/18(日)開催!『鎌倉の家』刊行記念 甘糟りり子トークイベント&サイン会
代官山 蔦屋書店で『鎌倉の家』刊行を記念して著者・甘糟りり子さんのトークイベント&サイン会が開催されます。書籍執筆の際の裏話、鎌倉での現在の暮らし、オススメのお店などのお話のほか、参加者の皆さまからの質問コーナーも。トーク後は写真撮影、サインも可能、なんと甘糟さんがご用意した鎌倉のお土産がもらえる特典つきとのこと! ぜひふるってご参加下さい。

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『鎌倉の家』
甘糟りり子 著 ¥1600(税別)河出書房新社刊

高い天井には太い梁、客間には囲炉裏、庭に咲き誇る四季の花々―風情ある日本家屋で育った著者が、鎌倉の魅力を鮮やかに描き出すエッセイ。戦前に建った風情溢れる日本家屋、家族の思い出の味、山菜料理でのおもてなしと器のほか、鎌倉暮らしに欠せない味、店も多数紹介されています。


構成・文/川良咲子
 
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