著者のひとりである宇野維正さんのインタビューの中の言葉が、私が抱えていた「ミスチル好きな男子と向き合えない問題」というモヤモヤを一掃してくれました。

「平成」とは何だったのか? ミスチルと日本代表から見えた時代精神(現代ビジネスより)

基本的に海外のポップ・ミュージックを中心に聴いてきた自分は、当時そういうミスチルの歌詞をテレビや街で耳にして「なんかしんどそうだな」って思ってました。でも、その下の世代(編集部注:宇野さんは1970年生まれ)の文化的な関心がどんどん内向きになっていって、若者を巡る日本の社会状況もどんどんハードになっていって、ミスチルの音楽もそこに並走していった。ミスチルの歌詞だって、初期の頃は浮かれたところもいっぱいあって、自分はむしろそういう曲が好きだったんだけど、どんどん真面目な曲が増えていった。僕はずっと不真面目に生きてきた人間だから最近までよくわかってなかったけど、平成の若者文化を改めて振り返ってみると、やっぱり、ある時期から意識を高くしていなければサヴァイヴできないような時代になっていったんでしょうね。


そうだ、私も不真面目だったから、ものごとを斜に見てしまうところが大いにあったから、当時、同世代が放っていたピュアでまっすぐな真面目さ、正しさに触れた瞬間、心のシャッターが閉じてしまったのだな、と。

「mr.myselfと自分に問いかけ続けて内へ内へと向かわないで、もっと私を見ておくれよ」という動揺からだったかもしれないし、「真面目になりすぎないで、とにかくTake it easyで行こうよ」と呼びかける虚しさからだったかもしれないし、(宇野さん言うところの)浮かれた楽曲を奏でていたはずのミスチルに、そしてそれらを楽しんでいたはずの同世代に置いてけぼりになった寂しさを覚えたからだったのかもしれません。

いちばん好きだったアルバム『KIND OF LOVE』。抱きしめたい、車の中でかくれてキスをしよう、星になれたら……いわゆるラブソングが詰まっています。この文章を書くにあたり、久しぶりに聴いてみたら、なんとも甘酸っぱい記憶が走馬灯のようにフラッシュバック(泣)!


と、私の個人的な話はさておき(前置きが長くてすいません)、国民的コンテンツであり続けたミスチルとサッカー日本代表を紐解いていくことで、「平成はいったいどういう時代だったのか」ということが明確になっていく感覚に興奮が止まらず、本当に読み終わるのが惜しくなる一冊でした。もちろん、それと同じくらい「そうだった、そうだった」というノスタルジーという興奮も味わえます(桜井さんの盟友・名波選手の書籍に実は脚本家の坂本裕二さんも携わっていたという事実や、岩井俊二監督が手がけたドキュメンタリー作品『六月の勝利の歌を忘れない』などの話にも触れており、平成カルチャー史としての側面も!)。

上記インタビューから引用
昭和の日本には社会全体が共有する大きな目標があった。戦後には敗戦からの復興というストーリーがあったし、高度経済成長期からバブル時代にかけては『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と言って、今度は経済でアメリカに勝って世界一になるという目標を共有して進んできた。けれど、バブル崩壊を経て、そういう目的意識を失ってしまったが、Jリーグがスタートしてミスチルがブレイクする1993年までの平成初期の数年間だと思います。そして、その年に「ドーハの悲劇」があった。ということは、その時に日本代表が掲げた「いずれサッカー強国になって世界と戦う」というグランドデザインが、日本社会全体が失っていた目標みたいなものにすっぽりとハマった感じがするんです。そして、そのBGMとして、自分らしさについて歌ってきたミスチルが鳴っていた。



そう、いつだってミスチルが鳴っていた……

来年5月には年号が変わります。平成がスタートし、しばらく過ぎてから昭和の輪郭が私たちの中でハッキリしていったように、今はまだ曖昧な「平成っぽさ」というものが、数年後には私たちの中に記号化され、共有され、記憶の中にデフォルメされて保存されていくことになるのでしょう。

私がおばあちゃんになって、若い世代に「平成ってこんな時代だったんだよ」と伝える際には迷わずこの本(もしかしたら、その未来は紙の書籍ではなくデータ一択になっているのか!)を手渡したいと思います。その時、日本はサッカー強国になって、ワールドカップの表彰台で悲願のメダルを手にしているかもしれないし、カップを掲げているかもしれない! そんな未来をも夢想させてくれる読後感も含め、Jリーグの開幕から始まった一連のサッカー日本代表狂騒曲、そしてミスチルのブレイクから今日にいたるまでの活躍に覚えがある方なら間違いなく楽しめます。そして、もちろん日本代表やミスチルに思い入れがある方ならその何倍も!

平成最後の年末年始。ぜひ、こちらを手に取ってみてはいかがでしょうか?


※著書同士の対談記事も併せてお楽しみくださいませ♡
前編 なぜ日本代表とMr.Childrenなのか? 名波・中田に始まり、長谷部で一体化
中編 クロスカルチャーは幻想?しかし…サッカーとミスチルの本物の関係

後編 「ミスチル世代」とは何なのか?「批評」が機能しない社会の怖さ

 

今日のお品書き
ミモレが考えないでどうする! そうです、今年の流行語大賞にもノミネートされた「グレイヘア」。年齢を重ねることを楽しむ。それが信条のミモレは真剣にこの問題について考えたいと思います。私自身も、白髪が一気に増え始め、さて、これからどう付き合って行くべきかと思案中(なんてたって過渡期がいちばん難しい!)。今後の企画のために、たくさんコメントをいただけると嬉しいです。

 
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