「やっぱこの原作の強さは“ブス”って言葉なんで、まんまで押していきましょうよ」とかなんとかいって、このタイトルに決まっちゃったんでしょうか、『ちょうどいいブス』。「どんな女性でも“ちょうどいいブス”になれば男にモテて人生楽しく幸せになるよ!っていうドラマが、この1月から始まるんだ面白そう見たーい!」って、世の中の女性が言ってくれると思ったんでしょうか、この時代に。それでもって炎上したからって、(原作あるからドラマの内容は変わらずに)ワザとらしいほどの“偽善臭”と“前向き臭”を漂わせたタイトル(『人生が楽しくなる幸せの法則』)に変えれば、炎上した人たちも「ブスって言わないならヨシ!」と納得すると思ったんでしょうか。

どこから指摘していいのかわかんないくらい、全方向的にズレまくりの「“ちょうどいい”ブス炎上騒動」。HPとかも完全手付かずな様子ですが、ここまでくると逆にどうやって1クール持たせるのか興味がわいて見ちゃいそうな気すらする『ちょうどいいブス』。じゃなかった『人生が楽しくなる幸せの法則』。あらやだ、炎上商法にひっかかるところ。

『ちょうどいいブスのススメ』著・山﨑 ケイ(相席スタート)


とまあ脊髄反射的に反応してみたものの、はて。この原作&原作者ってどんな感じなのかしら。私は原作者である、お笑いコンビ「相席スタート」山﨑ケイさんを知るべく、まずはネット上で動画をあさってみました。私はお笑い関係に疎いのですが、「相席スタート」は相席屋よろしく名前の通り男女のコンビで、ネタのベースは“恋愛あるある”。例えば、断られても傷つかない告白、「もしもー仮に私があなたを好きだったらどうする?」みたいに言うのがいいんじゃないの――ってところから始まる男女のやりとりを、恋愛上手な姐さんとキメられない年下男みたいなキャラのふたりの絶妙な掛け合いで笑わせ、「M1ファイナリスト」の名に偽りない面白さがあります。所属事務所の配信番組では一般からの恋愛相談なんかもしていたようです。


そんな流れの中でネタ担当の山﨑さんが持つことになったweb連載「ちょうどいいブスのすすめ」が、今回のドラマの原作。あーだこーだ言う権利を得るために読ませていただきわかったことは、これが非常に古典的な「恋愛マニュアル」「モテ指南書」だということです。山﨑さんは早稲田大学を卒業した才媛で、その「現実」を観察し分析し、導き出す具体的かつ説得力のある明快な回答は「なるほど!」と膝を打ちたくなるものばかり。


例えば。男性と飲みに行く、その店を自分が選ぶ時の目安は「生ビール1杯が580円、もしくは680円の店」。それ以下だとムードがないし、それ以上だと高くておかわりするのも気兼ねしてしまうから。奢られることは前提です。

逆に「何食べたい?」と聞かれた時は、「男性が懐具合に合わせて選べるように、“お肉”“お魚”などの食材を提示すること」。ついうっかり「寿司」「焼肉」と言ってしまったりしますが、それが許されるのは美人だけ――ここに「美醜」を絡めてくるのがこの本の最大の特徴。エッセイの中で何度も何度も、「美人は何をしても許されるけど、ブスは許されません」という言葉が登場します。

写真:Shutterstock

つまるところ「ちょうどいいブス」は、「分をわきまえた」(こちらも何度も登場)、努力や気遣いができるブスのこと。それらはもちろん「自分が楽しむ」ためではなく「男を喜ばせる」ために「ちょうどいい」もので、それさえあればブスもモテる――ということですな。そこには、目の前にあるマッチョな「現実」――きっとお笑いの世界なんてその最たるもの――を冷静に観察し、自身の利益を最大化するための(ある意味で分かり切った)適合戦略があります。さらにそういうもろもろをできない(しない)ブスを「逃げ場のないブス」と定義し、最底辺になるな!とばかりにヒエラルキー化し、でもちょっと努力すれば「ちょうどよく」なれるから大丈夫、なーんて感じも心憎い。頭いい人なんでしょう。

本の冒頭には、彼女が「ちょうどいいブス」を自認するようになったきっかけとして、先輩芸人(妻が美人モデル)に言われた言葉が披露されています。曰く
「お前は“ブス”じゃない感じでいるけど、ブスだからな。でもブスはブスでもちょうどいいブスだなあ」。
その場にいた全員の「わかるわかる」という言葉によって自分の「立ち位置」を自覚させられた彼女が展開する、「“美人じゃないけどブスでもない”と思っている人のほとんどが“ブス”」という理論が衝撃的です。「そうだったのか……」ということではなく、この発言の完全な男目線ぶりに。
そういえば、話題の小説『彼女は頭が悪いから』の中で、加害者グループたちがこれとよく似た考え方――「女は美人と“それ以外”」――をしていたことを思い出します。被害者になる主人公の女の子は「私はデブでブスだから、せめて楽しませなくちゃ」という思考回路で、常に男たちの求めるままに行動し、最終的には人間扱いされないまでに辱められることになりました。

もちろんそういう方法で「男目線のモテ」を追究する人の価値観を、私は決して否定はしません。すべての人が深刻な事態に陥るわけでもないし、個々人の意志でお金を払って本を買うならそれはそれ。でも誰もが無料で見られる地上波のテレビドラマで、「これこそが女性の人生が楽しくなる幸せの法則!」と放送することはどうなのかなあ。子供には絶対見せたくない。子供いないけど。


そうそう、下ネタの対処の仕方もありました。ほどよい下ネタで笑いを取れることは、美人にはない「ちょうどいいブス」の魅力のひとつ。でも男子たちのえげつない下ネタには、ノリノリで入っていく「下品なブス」や、白い目で見る「ノリの悪いブス」にならないよう気をつけねばいけません。「ちょうどいいブス」は遠巻きに笑顔で見守る――あああ、ぼんやりと、いや目を凝らせばはっきりと、見えてきます、「下ネタやセクハラを笑顔でやり過ごすのは女性のスキル」とかなんとかほざいていた女性議員、あの杉田水脈の姿が。そかそか、彼女みたいな人が「ちょうどいいブス」なのか。私はこれっぽっちもなりたくない。