気になる編集者と2人だけの食事会が決まりドギマギ。第2話より。ⓒ渋谷直角/宝島社  ⓒ「デザイナー 渋井直人の休日」製作委員会

第2話では、仕事相手の女性編集者・高田(夏帆)やライター、アシスタントと食事をしていると、「渋井さんモテそうなのに」「なんで独身なのか不思議だなって」「大御所だから恋愛となると遠慮しちゃうのかな」「オシャレだしダンディだし完璧すぎるのかもね」と持ち上げられ、ご機嫌に。渋井が料理上手という話から、渋井の事務所兼自宅で食事会の開催が決定。スケジュールの都合で高田だけが来ることになり、「たいしたものできないよ。本当に普通だよ」と言いつつ、「アクアパッツア」「オックステール煮込み」「タルトショコラ」を朝4時から仕込む。食器はクリスチャンヌ・ペロションをチョイス(「こういうときにルーシー・リーもあればいいのになー」という独り言を添えて)。モノローグは「独身生活も長くなると自然と料理も上手くなる」「凝りだしたら止まらなくなり、人と違うものを作りたくなる。デザイナーとしての性だろう」。「ないないない」と期待を打ち消しながら、「一応…」とベッドのシーツも交換するも、「猫が逃げちゃって」という理由でドタキャン。渋井直人が暗い部屋で独り、煮込みをつつく切ない姿に笑いと同情が同時にこみ上げる。

 

2話時点でのひっかかりポイントは、彼がときめく相手が、デザイナーである自分がマウンティングしやすい、文化系の若い女性であること。そして、相手からの、仕事人としての褒め言葉をいいように解釈してポーッとのぼせ上がり、ちょっと傷つきそうになるとさっと引くところ。なのに一晩眠ると中年の忘却力を生かして、「何かが始まる予感」に性懲りもなくウキウキし始めるところ。中年の独身女の自分もリセット力が年々高まっているだけに、彼を見るとある種の近親憎悪や危機感を覚えるのかもしれない。

「おしゃれでかわいいおじさん」渋井直人を好演する光石研。第3話より。 ⓒ渋谷直角/宝島社  ⓒ「デザイナー 渋井直人の休日」製作委員会

しかし、多くの視聴者にとって渋井直人は「お近づきになりたいおしゃれでかわいいおじさん」だろう。この、見る人によって見え方が変わる深みを役に与えたのは、本作が民放連ドラ初主演となる光石研(57)。彼は、映画デビュー作『博多っ子純情』以来33年ぶりの主演を努めた『あぜ道のダンディ』(2011)でもおじさん役を熱演しているが、あちらはダサくてこちらはおしゃれ。あちらは妻に先立たれた2人の子持ちで、こちらはまっさらな独身貴族。まったくキャラクターが違うのに、どちらも不器用で、臆病で、プライドが高く、見栄っ張り。そして、どちらも痛々しいのにユーモアと可愛げが漂っているのは、役者のテクニックによるものだろう。

渋谷直角作品はモノローグが作品の大きなパートを占めている。このドラマにおける渋井直人の前半のモノローグはまるで、SNSから垂れ流される「こう見られたいボク」そのものだ。だからこそ、「何かが始まる予感」が終了した後の、本音まるだしの人間味のあるモノローグとのギャップが、この作品の醍醐味となる。エアポートおじさんもクソリプおじさんも、日々、渋井直人のように傷つきながらも、SNSへの投稿で自分のプライドを保っているのかもしれない。そう考えてみると可愛く見えて……はこないか。それはさておき、渋井直人がSNSデビューしないことを願いながら、続きを見守ります。
 

<ドラマ紹介>
『デザイナー 渋井直人の休日』
 

テレビ東京にて毎週木曜深夜1時放映。
主演:光石 研
ⓒ渋谷直角/宝島社  ⓒ「デザイナー 渋井直人の休日」製作委員会

 

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

 
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