〈課題一〉
レゴで、豊岡市のシンボルとなるようなものを作ってください。さらに、その作品を題材にし、小学校3年生を対象に想定して、5分から10分のふるさと教育の授業を作ってください。
プレゼンの際は、全員が何らかの役割を果たして説明をするようにしてください。

〈課題二〉
まず、太田裕美さんの『木綿のハンカチーフ』を皆さんで聞いてください。この曲は、昭和40年代の東京と地方のイメージを鮮烈に表した流行歌でした。
豊岡市は、このような固定したイメージを払拭するところから、地方創生、人口減少対策は始まると考えています。

〈問題〉
皆さんは豊岡市役所に就職後、Iターン戦略の担当となりました。そこで、『木綿のハンカチーフ』に描かれたようなイメージを払拭できるような歌詞を考えるための諮問委員会を設立することになりました。
どのような出席者がいたら会議の議論が面白くなるかを考え、会議のシナリオを創りなさい。
発表の際は、全員が何らかの役割を果たして、一人2回は発言するようにしてください。
時間配分や役割分担を、しっかり考えてください。

〈参考〉
以下の楽曲も聴いてみるといいかもしれません。このような二項対立にしないことが大事です。

吉幾三  『俺ら東京さ行ぐだ』
たすくこま『俺ら東京を出るだ』(吉幾三『俺ら東京さ行ぐだ』の替え歌)

登場人物は、例えば以下のような人が考えられます。

・大学の観光学の教授
・東京の広告代理店
・地元の伝統芸能の継承者
・よさこいソーランの主催者
・漁業協同組合の幹部
・教育委員会
・市役所の各担当部署の職員
・傍聴に来ている議員
・Iターンしてきたアーティスト
・旅館組合の代表

ただし、これにとらわれずに自由に考えてください。
正しい回答を導き出すのではなく、逆に、どうすれば議論が混乱するかを考えてください。
地元の意見が正しく、広告代理店の意見が間違っている、あるいはその逆といったステレオタイプを避けてください。また、正しいことを言っていても性格の悪い人など、人間の性格や関係も考えてください。

 

一年目の採用試験については、就職した一期生にアンケートをとり、二年目の難易度などを調整した。二年目の〈課題二〉で、登場人物の例を挙げたのは、その一例である。

豊岡市は、問題文にもあるようにコウノトリの再生で名をはせた自治体だ。コウノトリは完全肉食なので田んぼにドジョウや蛙がいないと生きていけない。兵庫県と連携しコウノトリの孵化、野生復帰に成功した豊岡市は、次に無農薬の田んぼを増やし、コンクリートで固めた圃場を土に戻すなどしてコウノトリの生きやすい環境を整備してきた。さらに、そこで生まれた無農薬・減農薬米を「コウノトリ育むお米」としてブランド化し、いまや高価格での流通に成功している。これを豊岡市は「環境と経済の両立」と呼んできた。

豊岡市が次に目をつけたのがアートだった。
豊岡市は城崎温泉という日本有数の温泉地を抱えている。その温泉街の端に、県立城崎大会議館という1000人収容の会議場があった。30年以上前に建てられたこの施設は、開館以降、一度も1000人を満たしたことがなく、お荷物施設となっていた。
この施設の県からの払い下げが決まり、市としても、いったいどう活用するか、潰して駐車場にでもするかと話し合っていたところ、市長が急に「劇団やダンスのカンパニーに貸し出したらどうだ?」と言い出したことから物語は始まる。

私はたまたま、その時期に豊岡市に文化講演会で招かれており、空いている時間に担当者から会議館の利用について相談を受けた。実際に案内してもらうと、城崎の街並みは想像以上に素晴らしかった。しかし、くだんの大会議館はお世辞にもセンスのある建築物とは言えず、これを利活用するのはよほどの知恵が要ると思われた。
しかし、紆余曲折あって、私はこの施設の再生のための検討委員となり、やがて城崎国際アートセンター(KIAC)としてのリニューアル後には芸術監督に就任する。

このKIACは、世界でも珍しい演劇、ダンスといった、いわゆるパフォーミングアーツに特化したアーティスト・イン・レジデンスの施設となっている。
会議場を改装した巨大な劇場空間と、六つのスタジオ、そして最大で22名までが宿泊滞在できる和洋室。滞在中は自炊ができるように、キッチンやカフェスペースも備えている。
開館一年目、それまで年間20日しか使われていなかったこの施設は、300日以上の稼働を実現した。現在では、毎年世界20ヵ国以上から、100件近い利用の申し込みがあり、その中から20前後の団体を選んで滞在制作をしてもらっている。最長三ヵ月の利用料はすべて無料。ただしアーティストには、公開リハーサルなど滞在の成果を地域に還元してもらうことになっている。

だが、豊岡の改革はKIACに止まらなかった。というよりも、これは大きな物語の始まりに過ぎなかった。

(つづく)

 
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