©「きのう何食べた?」製作委員会

人気マンガの映像化は期待と不安が入り交じります。今期放送中の連続ドラマ『きのう何食べた?』はまさにそれでしたが、早くも払拭させているようです。放送が始まるや否や初回の見逃し配信の回数はテレビ東京ドラマ史上歴代最高記録をたたき出し、SNS上では安心感を得たのか「ありがとう」の声が続出。マンガ原作作品が吉と出るか凶と出るその分かれ目にある「条件」とは何でしょうか?


見逃し再生回数1週間で155万回超え、『孤独のグルメ』の記録を塗り替える


ドラマ24『きのう何食べた?』の盛り上がりは放送前から異例尽くしでした。放送開始前の約4か月前、それもテレビ東京から公式発表される前に「西島秀俊・内野聖陽ダブル主演でドラマ化決定」のニュースが出回りました。人気も実力も兼ねる二人がカップル役を演じることそのものに対する話題はもちろん、それ以上に原作ファンから熱い視線が注がれたのです。原作は同名タイトル、よしながふみ著書による料理漫画。『モーニング』(講談社)で月1連載が2007年より続き、累計発行部数500万部(電子版含む)突破の超人気作。初のドラマ化にファンも黙ってはいられません。長きにわたって支持を集める漫画原作ならではの熱量とも言えますが、放送前から異様な盛り上がりをみせていました。

いざ放送が始まると、これまた数字にも反映させていきます。第1話の見逃し配信の再生回数が見逃し配信の終了まで(第2話の放送終了まで)に、155万回超えを記録。これまでテレビ東京ドラマの中で見逃し配信の再生回数の最高記録は約95万回再生の『孤独のグルメ 大晦日スペシャル』(2018年12月31日放送回)が保持していましたが、テレ東京ドラマ切っての人気ドラマであり、ロングランシリーズをいとも簡単に第1話の放送回で制してしまいました。放送中にはツイッター上で世界トレンド入りも果たしたほどです。

SNS上での反響もおおむね好意的な意見が目立ちます。2018年のヒットドラマで男性カップルの恋愛を描く『おっさんずラブ』との比較に始まり、「演技力」、「飯テロ感」、「演出の良さ」といった観点から高評価。「これってアリ」のマンガ原作作品のドラマとして幸先良いスタートを切っていると言ってよいでしょう。

早くも原作ありが吉と出ている『きのう何食べた?』ですが、どんな「条件」が満たされているのか、ここでもう少し深掘りしていきましょう。
 

条件その① 2年も前から!キャスティングへのこだわり


まずはじめの条件に挙げられるのが、キャスティングです。几帳面で倹約家の弁護士・通称シロさんを西島秀俊が、その恋人で人当たりの良い美容師・通称ケンジを内野聖陽が演じているわけですが、原作キャラクターのイメージに合うキャスティングにこだわったそうです。テレビ東京によれば、ドラマ化話が持ち上がった段階から西島推し。オファーしたのは2年も前。昨年の『おっさんずラブ』人気から同姓カップルものが企画されたのかと思いきや、そんな前から温めて続けていたというのです。またステレオタイプの同性愛者像を演じるだけに終わらない内野聖陽の存在も欠かせません。本人もキャラクターのイメージを捉え、「自然体に出さればいいなと思っています」と話す公式コメント通りの演技をみせています。


条件その② 放送局の得意ジャンルのドラマであること


2番目の条件は制作する放送局の得意ジャンルであること。テレビ東京は深夜ドラマ「ドラマ24」枠でこれまで『孤独のグルメ』をはじめ、『忘却のサチコ』『侠飯〜おとこめし〜』『フルーツ宅急便』といった飯テロドラマを次々と輩出してきました。テレビ東京制作、というだけで太鼓判ははじめから押されていたと言っても過言ではありません。もちろんこの人気マンガのドラマ化を狙っていたのはテレビ東京だけに限りません。実際、他局から「実はウチで検討していました…」といった声も漏れていました。
ちなみに料理を扱った番組は日本テレビ界のお家芸。世界のありとあらゆる番組を調査するフランスの番組リサーチ会社の代表から以前、「どうして日本はこんなにも料理ジャンルの番組が多いのですか?それなのに、どうして日本人は痩せているの?」と質問攻めにあったこともあります。
 

条件その③ リピート視聴できるクオリティの高さ


そして、3番目の条件にはリピート視聴できるほどのクオリティであること。主演の二人をはじめとする、どの配役に至っても演技力抜群のキャスティング、満足度の高い飯テロ感が実現できていることも良作であることを物語っています。
それだけでなく、程よいフェチズムと心の機微を丁寧に描いたそのバランスのよさがこれまでにない男性カップルドラマに仕上げられていることも大きいでしょう。そんな大人の香りをドラマで使われる音楽が盛り上げています。とくにシーンに合わせた音楽のセレクトにセンスの良さが。担当しているのはシンガーソングライターの澤田かおり。女優・沢田亜矢子の娘であることでも知られています。
 

あえて「条件」という表現で並べてみましたが、シンプルに言えば良作だから。要求の高い大人たちの満足度を高める作品であることに間違いありません。製作陣の腕の見せどころでもある中盤戦の仕掛けにも期待です。

<作品紹介>
ドラマ24「きのう何食べた?」

テレビ東京にて毎週金曜深夜0時12分放送(4月26日(金)の放送は「世界卓球2019」中継により時間変更の可能性があります)
出演:西島秀俊、内野聖陽 ほか
©「きのう何食べた?」製作委員会

 

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。