フリーアナウンサーの近藤サトさんが見事なグレイヘアでメディアに登場したのが昨年の5月。ちょうど1年が経ったわけですが、その後起こったグレイヘアブームは、皆さんも記憶に新しいところではないでしょうか。
世の中はなぜこんなにも近藤さんのグレイヘアに反応したのでしょう? そこに何を思ったのでしょう? この1年を近藤さんと振り返りつつ、グレイヘアが私たちに教示してくれたものについて考えていきました。

近藤サト 1968年生まれ。岐阜県出身。日本大学芸術学部放送学科卒業後、フジテレビにアナウンサーとして入社。報道番組や情報番組のナレーションを担当する。1998年9月にフジテレビを退社。フリーランスに転身し、ナレーションを中心に活躍してきた。2003年に再婚し、現在15歳になる息子が一人いる。昨年5月の『バイキング』(フジテレビ)に、長年の白髪染めを止めグレイヘアで登場したところ、大注目を集めグレイヘアブームを引き起こす。5月に刊行した著書『グレイヘアと生きる』(SBクリエイティブ)が好評を博している。


グレイヘアが女性たちにもたらしたものとは?


 近藤サトさんが、それまでの黒髪から突如グレイヘアになって公の場に登場したのは、ちょうど1年前の5月のこと。近藤さんは普段、ナレーションのお仕事がメインで顔出しをすることがほとんどなかったため、周囲は急激に見た目が変化したように感じ、唖然としました。
 しかしその後、多くの女性たちが「若さにしがみつかない潔さがいい」、「ありのままの自分を楽しんでいる姿がステキ」などと賛同の言葉を送るように。そうして、近藤さんのように白髪染めをやめる人も出てくれば、一方で「グレイヘア賛美にNO」を唱える論も飛び交い始めるなど、一大現象に。その後「グレイヘア」という言葉は2018年の新語・流行語大賞にノミネートされ、「2018年はグレイヘア元年」とまで言われました。
 これほどまでにグレイヘアに多くの女性が反応したのは、単なる髪色の問題ではなく、そこに“女性の生き方”というものを重ねて見たからではないでしょうか。そこで、ブームのきっかけとなった近藤さん自身にこの1年を振り返ってもらいつつ、グレイヘアがもたらしたものについて一緒に考えてみることにしました。

 

周囲で起こった様々すぎる反応


今でこそすっかり定着した近藤さんのグレイヘアですが、当初は、賛否を含めて周囲の人たちは実に様々な反応を示したと言います。まず近藤さんは、その中でも印象的だったものを面白おかしく挙げてくれました。

反応その1 「変わらないね」が死語に!
「白髪にしてから、『変わらないね』と言われることが面白いほどピタッとなくなりました。今や、この言葉は私にとっては死語です(笑)。とくに同窓会に行くと、髪を染めている同級生女性たちと比べて明らかに老けて見えるから、皆、私に何と声をかけていいのか分からず困惑しています。私は何でも楽しんでしまう性格なので、『ここに、“変わる=良くないこと”とされている社会構造が見えるな』と興味深く受け止めていたのですが……(笑)」

反応その2 まだ大御所感が足りない!?
「私が白髪染めをやめたとき、事務所の社長からは反対されました。その理由は何と『まだ大御所感が出ないから』。白髪って大御所しかしちゃいけないものなの!?と思ったものですが、私はだからといって言うことを聞くような性格ではないので『ふーん』と思いながら流したのですが(笑)。ちなみに私の男性マネージャーは、私がグレイヘアにしたことで初めて自分の奥さんも髪を染めていたことを知ったそうなんです。もし今、市場から白髪染めが消滅したら、見た目は若いけれど髪は白いという女性がものすごい数、出現するはず。そうしたら男性たちはびっくりすることでしょうね」

反応その3 女を捨てたつもりはありませんが!? 
「グレイヘアにしてから、男の人からほとんどと言っていいほどお酒の席に誘われなくなりました。一方で、電車の中では席を譲られるように……。それだけ“白髪=おばあちゃん”という印象が強いのでしょうね。極めつけは、あるときグレイヘアに関する取材を受けていたら、女性記者から『サトさんが40代で女性性を捨てたのはなぜですか?』と聞かれたこと。私は白髪染めはやめたけど、女を捨てたつもりは全くありませんでしたが!? と笑ってしまったものです。同時に、“美しいとはどういうことか?”というものも深く考えさせられた反応でしたね」

反応その4 白髪=計算ができない!?
「グレイヘアにしてから、様々な方の白髪体験もお聞きするようになりました。その中で印象的だったのが、役所の窓口で働いていた女性の体験です。彼女は白髪を染めずに窓口対応の仕事をしていたら、彼女の上司のもとに、『あの女性は計算ができるのか?』というお客の不安の声が寄せられ、結局彼女は上司に言われて泣く泣く髪を黒く染めたそうです。
 つまり多くの人が、白髪=お年寄り、お年寄り=計算ができない、と無意識に思っているということ。日本はお年寄りが尊敬されないから皆髪を染めるのかもしれない、と考えさせられたものです」

反応その5 白髪になった途端、敬語に!
「黒く染めていた髪から完全グレイヘアへの移行期の頃は、やはり大変でした。私は『富士山の初冠雪』と言って笑っていたのですが、その時期は帽子をかぶったり、グレージュに染めて失敗したりと、右往左往していました。その移行期がようやく終わり、晴れて全髪グレイヘアで登場すると、突然周囲が敬語に変わったんです! 本当に、昨日まではタメ語だったのに。若い人に敬語を使ってもらいたいなら、白髪にするのがいいかもしれませんね(笑)」

 
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