髪を染めている理由を説明できますか?

 このように、自身のグレイヘアに対する周囲の反応を、笑いに変えながらお話してくれた近藤さん。でも実際には、もっとも多かったのは「老けた」「劣化した」といったストレートなネガティブコメントでした。それでも近藤さんはもともと、いつまでも若くいたいという願望がほとんどなかったため、「それが何か?」と気にならなかったと言います。

「グレイヘアにしたことで耳にするようになったのが、若い女性たちの『この人を目指したいと思えるような女の先輩がいない』という言葉でした。なぜかというと、皆、髪を染めてシワをケアして若さを保とうと必死だから。
50歳になっても60歳になってもあんなに頑張り続けなければいけないのか……と、彼女たちは憂鬱になるんだそうです。
でも私のように、染めないことを選択する女性もいれば、染めることを選択する女性も当たり前にいる、そんな社会になってくれば歳をとることへのネガティブイメージが少しは払拭されるかもしれない。そうなったら嬉しいなと思ったものです」

 近藤さんが白髪染めをやめようと思ったきっかけは、あくまで頻繁に染めることの煩わしさと、頭皮がかぶれる不安から解消されたいと思ったことが大きかったそう。ですがその後、白髪に対する女性たちの様々な思いに触れ、「これは自分の生き方を選択する行動だったんだ」と強く自覚するようになっていったと言います。

「これまで私たちは、白髪は隠すのが当たり前、と思ってきました。『老いに抗わない』という考え方が広まる一方で、髪だけは皆、何の疑問も抱かず染めていた。だから皆、なぜ染めようと思ったのか、そのきっかけを聞かれると説明できないと思うんです。でも、本当にそれでいいのかな、と。
若い女性たちが『憧れる先輩がいない』と言うのも、そんなふうに、私たちが自分のことを自分で選択していないからかもしれません。だから、染めても染めなくてもどちらでもいいと思うんです。ただ、自分で選んでほしい。『今はまだ若く見せておくほうがいいな、だから染めよう』とか、『貫禄を出したいから染めるのをやめてみよう』とか、生きていくうえでの戦略を考えたうえで決めてほしいと思うんです」
 

 

「白髪=リスタート」のイメージに変わるといい

 

 しかも日本は、超がつくほどの高齢化時代に突入しています。白髪になってから何十年も生きることを考えると、若さに寄せることばかりしていたのでは高齢者が尊敬されない社会になってしまう、と近藤さんは言います。

「日本は、高齢者=終わった人というイメージがありますよね。だから定年退職すると年賀状がガタッと減る、なんてことも起こる。でも高齢者たちが、新しい人生をリスタートさせて輝いている姿を見たらどうでしょう?
昨年話題になった書籍『LIFE SHIFT』で著者のリンダ・グラットンは、100年生きることを考えたら、50歳とか60歳で学び直しをしたり新しいことに挑戦するなど、マルチステージを持つことが大事だと説いています。
私も40代でグレイヘアにしてみて、新しい分野のお仕事依頼が増えましたし、似合うファッションやメイクも変わった。想定外に訪れた新しいステージでしたが、すごく新鮮な気持ちで楽しんでいます」

 そこで、すっかり自身のグレイヘアが定着した今後は、どういうメッセージを発信していきたいと思っているのかも伺ってみました。

「やはり、もっと染めない人が増えていけばいいなと思います。『グレイヘア』という言葉を世に出した女性編集者は、ほとんどのメンバーが男性である企画会議で、『そんな言葉は……と反対された、でも私は戦った』とおっしゃっていました。
今はまだ、そんな気力も体力もある女性じゃないと生き残れない時代。そうではなく、普通の女性でも気軽に染めないという選択ができるような社会になればいいですよね。私も女性たちに後押ししてもらってグレイヘアに戻すことができたので、今度は私が後押ししていきたいと思っているんです」
 

 

『グレイヘアと生きる』
著者 近藤 サト 1300円(税別) SBクリエイティブ


グレイヘアブームの火付け役となった近藤サトさんの著書。グレイヘアにして良かったこと、大変だったこと、気づかされたことなど、グレイヘアで生きることへの思いを余すところなく綴っている他、グレイヘアの楽しみ方も詳しく解説してくれています。
 

取材・文/山本奈緒子
構成/片岡千晶(編集部)
 
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