同性カップルの何気ない日常を描き、話題沸騰中のドラマ『きのう何食べた?』(第7話より)。©「きのう何食べた?」製作委員会

今期の連続ドラマの中で最も熱い作品と言えば、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)でしょう。序盤戦に原作ものが吉と出る「条件」が同作には揃っていることをご紹介しましたが、終盤戦に入るところで今回は、勢いが止まらない同作の「偏愛」的な現象に注目します。


4月の番組別再生数は全局1位、中盤戦で神回連打


ドラマ『きのう何食べた?』の主演は西島秀俊・内野聖陽のお二人です。原作は2007年から『モーニング』(講談社)で月1連載が続くよしながふみ著書による同名タイトルの料理漫画。男性カップルである料理上手で倹約家な弁護士の筧史朗(シロさん・西島)と、人当たりのいい美容師の矢吹賢二(ケンジ・内野)が「日々の食卓」を通してほっこり優しく、時にほろ苦い人生の機微を描く内容をドラマで再現しています。大きな事件が起こることもなく、憎たらしいキャラクターが登場して荒らすわけでもなく、淡々とした大人ドラマなわけですが、初回からこれまで毎話放送されるたびに話題を作り出していることがこのドラマの魅力のひとつにあります。

主役ふたりの役柄のハマりっぷりが話題(第8話より)。©「きのう何食べた?」製作委員会


主役ふたりのキャスティングの妙については前回もご紹介しましたが、大河ドラマから名探偵ピカチュウの声優までこなす西島のこれまでにない役柄のハマっぷりと、愛さずにはいられないほどケンジのキャラクターを確立させている内野の想像以上に魅せる演技力は、毎話どころか毎シーンごとにSNS上をざわつかせています。さらに、脇を固める俳優陣の存在感も見逃せません。小日向&ジルベール組を演じる山本耕史(小日向大策)と磯村勇斗(ジルベール=井上航)は登場時からコメディ度満載。シロさんとケンジの4人でダブルデートした新宿2丁目ディナーシーンがあった第7話はまさに神回でした。追い打ちをかけるように第8話で登場したヨシくん&テツさんを演じる正名僕蔵(ヨシくん=長島義之)と菅原大吉(テツさん=本田鉄郎)にも熱い視線が注がれました。予告段階からシロさんとケンジ、ヨシくんとテツさんがテーブルを囲んだシーンの原作再現率の高さが話題になり、実際の放送も期待通りの仕上がり。こうした中盤戦の飽きさせない作戦に気持ちよく引っ掛かることができたファンも多かったことでしょう。

原作に忠実な作りも魅力のひとつ(第8話より)。©「きのう何食べた?」製作委員会

盛り上がりを反映した数字についてもお伝えしておくと、発表された『きのう何食べた?』広告付き見逃し配信(Tver、GYAO、ニコニコ等含む)の第1話から第6話まで再生回数は6話連続で110万回以上を記録。4月の番組別再生数で同作が全局中1位を獲得するほどの反響っぷりです。この「きの何」効果により、制作、放送するテレビ東京グループ全体の広告付き配信は4月単月で過去最高の1410万回再生超えとなったそうです。

また4月25日に発売された公式レシピ本(講談社)は販売開始からわずか2週間で10万部を突破するなど景気の良い実績が並んでいます。
 

放送中に異例のイベント展開、シロさんとケンジの日常を体験できる?!


テレビ局側からは、勢いに乗ってファンの「偏愛」に応えるサービスも次々と打ち出されています。注目すべきは、劇中登場のマグカップの販売を4月19日から開始させたこと。シロさんバージョンのグレーとケンジバージョンの茶色の2色展開です。放送中、人気急上昇のタイミングに決めセリフ入りの饅頭などが販売されることは過去にも事例がありますが、1クール(3か月)以内に「偏愛」心を捉えるグッズを用意することは英断なくしてなかなか実現されません。ファンサービスが命のアニメで培ってきたテレビ東京ならではの素早さです。

放送中に異例のイベント展開も控えています。GALLERYX BY PARCO(東京都渋谷区)で6 月 13 日(木)~7 月 7 日(日)の日程で『きのう何食べた?』展が開催されます。ドラマの舞台セットの再現コーナーをはじめ、ドラマで使用された小道具、名シーンの場面写真展示、原作コミックの複製原画などが展示されるそうです。先のマグカップに加えて、限定オリジナルグッズの販売も予定されています。ドラマと原作の世界観を立体的に空間に落とし込み、シロさんやケンジの日常と、「きの何」ファンの日常が交差するような体験ができ、放送中同様に思わずお腹が空いてしまう展覧会になるそうです。大人ドラマならではの、決して子供騙しではない展示会であることを期待しましょう。

ドラマファンサービスの展開と言えば、昨今は大概の連続ドラマで公式ホームページに裏話などを盛り込んだ情報提供やツイッター、インスタグラムでドラマと連動したリアルタイムで楽しめる企画などもみられます。ドラマのプロデューサー自らツイッター上で発信し、ファンとやりとりするケースもあります。見逃し配信そのものも有料以外は今の段階ではサービスの延長線上にあります。全てそれはPRのためと言ってしまえばそれまでですが、ファンサービスをやって頂けるのであれば、「偏愛」にとことん徹した対応が望まれます。オープニング映像に少しの変化があっただけでも、「今回はわたしに違った顔をみせてくれたわ」とファンは喜びますから、きめ細やかに攻め続けていただくと、満足度は増していきます。それが今流のドラマの愛し・愛され方なのかと思います。

<作品紹介>
ドラマ24「きのう何食べた?」

テレビ東京にて毎週金曜深夜0時12分放送
出演:西島秀俊、内野聖陽 ほか
©「きのう何食べた?」製作委員会
※5/31(金)は放送休止

 

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。