子どもを積極的に持ちたいと考える世帯が減っているのであれば、そこには明確な理由があるはずであり、それは女性だけの判断ではなく、男性も含めた世帯全体の判断ということになります。もし本当に出生率を上げたいのであれば、世帯が子どもを欲しがらない(あるいは断念せざるを得ない)理由を探り、その部分について政策的に重点支援しない限り、事態が改善することはありません。

現実問題を解決するためには、状況について俯瞰的に考察する「システム思考」が必須となりますが、困ったことに日本人はこの思考法が極端に苦手です。わかりやすい「誰か」に責任を押しつけることで解決しようとするケースが圧倒的に多く、仕組みとして解決策が提示されることはまずありません。そして、責任を押しつけられる人というのは、ほとんどの場合、社会的弱者です。

桜田氏の発言に対して、ある人がSNS上で「本当は子どもがもっと欲しいのだけれども」と前置きした上で、「困った時に『わかってて3人産んだから自業自得』って言うんでしょう?」と述べていましたが、この発言は、今の日本社会が抱える病理を的確に示しているといってよいでしょう。

さらに言えば、少子化問題というのは、出生率を上げれば解決するという単純な話ではないことについても留意する必要があります。

 

現在、日本の人口ピラミッドは、老人が多く若者が少ないという、上が大きく下が小さい形になっています。ここで急に出生率を上げると、増え続ける老人に加え、子どもの数も増えてきますから、人口ピラミッドは、真ん中(ちょうど子育てをする世代)がくぼんだ形となります。
つまり、単純に出生率を上げてしまうと、子育てをする世代の国民は、増え続ける高齢者に加え、増加する子どもの生活も支えなければならず、彼等には想像を絶する過度な負担がかかることになります。

もし本気で出生率を上昇させたいのであれば、過度な負担を強いられる子育て世代に対して、相当なレベルの財政支援が必要です。これを放置すれば、生活が破綻する人が続出するでしょう。
 
状況を総合的に判断すると、少子化問題を解決するには、(男女問わず)子育て世帯に対する支援が必須であり、しかも出生率が上昇した場合には、さらに手厚い支援が必要となるため、莫大な財源を用意しなければなりません。少子化問題というのは、実は限りなく財政問題に近いのです。

困ったことに、少子化問題については高い関心を寄せていても、財政問題についてはゼロという人が少なくありません。このような状況では、社会的に問題を解決するのは難しいでしょう。「女性が子どもを産めばよい」などという意見は論外としても、わたしたちはもっと俯瞰的に物事について考える必要がありそうです。

 
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