子どもたちはどんな問題が「読み解けなかった」のか


「危機的状況」などと書かれると、子供の読解力が著しく低下しているように思われるが、新井先生が行ったのも経年調査ではないので、能力が急速に低下しているかどうかは解らない。ただ、この本には、たとえば以下のような文章がある。

〈では、現在の中学生はどれくらい語彙が不足しているのでしょう。ある公立中学校の社会科の先生に教えていただきました。大変熱心な先生で、以前から「教科書が読めない生徒が増えている」と感じ、社会科の教科書の音読を授業でさせているそうです〉

このような文章が挿入されていると、それが一教師の印象に過ぎないとしても、読者は、先の試験結果と統合して、子供たちの読解力が著しく低下し、「危機的状況」にあると解釈してしまうだろう。繰り返すが、あくまで危機的状況なのは、AI時代の到来に対してだ。まぁ私も売文の徒の一人だから、このくらいの「煽り」は仕方ないかなとは思う。また、教育改革は、多少、危機意識を持ってもらわないと進まないところもある。

 

さて、そのような前提に立って、ではさらに、ここではどんな問題が読解力の試験として扱われたのかを見てみよう。

まず、この『教科書が』では、実際に行われた基礎的読解力を測る試験(リーディングスキルテスト=RST)のすべての問題が示されているわけではなく、どうも、とりわけ正答率の低かった問題のみが記されているようだ。そのため、本当にどれくらい子供たちの読解力が「危機的」なのか、正確なところは解らない。特に正答率が低かったものとして、たとえば以下の問題が示されている。

[問2]次の文を読みなさい。
 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
 Alexandraの愛称は(   )である。
 ①Alex ②Alexander ③男性 ④女性

正解は①だが、中学生の正答率は38%だった。高校の平均は65%。皆さんは、これをどう思われるだろうか? たしかに、これを読んで、多くの人は「たいへんだ、危機的だ」と感じたらしい。新井先生は「背筋が寒くなる」と綴っている。

しかし私は、そうは思わなかった。どちらかと言うと、「まぁ、そんなもんだろう」と感じたのだった。
そう感じた理由はいくつかある。
新井先生も以下のように書いている。

〈おそらく「愛称」という言葉を知らないからです。そして、知らない単語が出てくると、それを飛ばして読むという読みの習性があるためです〉

(つづく)

前回記事「他者への寛容を学ぶために。「対話的な学び」に必要なもの」はこちら>>

 
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