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板谷由夏のおしゃれ哲学「20代の頃は女らしさと折り合いがつかなかった」

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20代の頃は、実は女らしさとうまく折り合いをつけることができなかったのだという。自分の中の女を意識することが苦手で、女として見られることがどうにも気恥ずかしい。男友達とも対等に、男のふりで遊ぶのが好きだった。「ずいぶんと意地を張って、背伸びもしました」と苦笑する。それでも30代にさしかかった頃、ふっと肩の力が抜けて、女らしさを素直に受け入れられるようになった。 「とはいっても、今でも髪が長いときは、どこか男っぽい部分を取り入れないとスカートをはくのもちょっと恥ずかしいタイプで。ミニスカートをはくなら足元はスニーカーとかね。バランスじゃないですかね。メンズっぽいボタンダウンシャツなんかでも、女の人が着るから色っぽい、そんなふうに思います」 

ブランドの中心に据えたデニムへの思いは、さらに熱い。そもそもコーディネートは、ボトムスから発想するのが板谷さんの流儀。まず好きなボトムスを決めて、それからどんなトップスが合うか?と考える。ボトムスがいつでも着こなしの土台となる。いちばん好きなのはリーバイス501。板谷さんにとっても「永遠の定番」だ。「どんなにベーシックなアイテムでもアップデートは必要だと思うんです。ただ私は、流行の形をそのまま取り入れるのではなくて、いつもの501のインチを変えて細身にはくとか、メンズを選んでダボッと見せるとか。そこにスニーカーだったり、スリッポンだったり、ときにはピンヒールを合わせてみたり。着こなしで、今の匂いをちゃんとキャッチしたいなと思います」

 
 

そんなデニム巧者の目には、「これまではいていたデニムが似合わなくなってきた」「はきなれないとデニムがしっくりこない」などと理由をつけながら、次第にデニムから遠ざかっていく大人たちが、たまらなくもどかしく映るようで……。「絶対、デニムは年齢に関係なく似合うから、固定観念は捨てて、はいてみて!」と、声を大にする。そして、大人だから楽しむことができるデニムを、という思いから、リジッド(=ノンウォッシュ)デニムに力を入れる。 

色落ちする。白いものには色移りもする。洗うと縮む。注意事項だけ並べると、一瞬ひるんでしまいそうだけれど、リジッドデニムの魅力は、何といってもともに時を重ねていく楽しみにある。はき続けることで色が落ちて、その人なりのシワやヒゲができる。3年後、5年後、10年後と表情を変えていく。いわく「育てるジーンズ」。 「自分だけの一本に育っていくのを見るのは楽しいですよ。エイジングは大人の楽しみですから。自分が洋服の色に染まるのではなくて、デニムが自分の色に染まっていく。その人なりの着方だってできる。ジーンズや、それからチノやシャツといったベーシックなアイテムだからこそ、可能性が広がっていくのだと思います」 

Yuka Itaya/1975年生まれ。女優として数々の映画やドラマに出演する一方で、「NEWS ZERO」(日本テレビ系列)では長年キャスターをつとめた。2015年よりデニムブランド「SINME(シンメ)」のプロデュースも手がけるなど多方面で活躍。

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木にたとえるなら、板谷さんにはおしゃれを育み、支えてきたトラッドという揺るぎない根っこがある。彩り豊かな花を咲かせ、すこやかな枝を伸ばして緑の葉を繁らせ、いつでもひょっこりと新しい芽が顔を出す。成長はとどまることなく、すっくと立つその木の姿形はほかの誰とも違う。「若いときは考えもしなかったけれど、今は私、80歳になってもきっとジーンズをはいていると思う。『よく育ったのよ』なんて自慢しながら、足元はコンバースで、ちょっと肩を出したりなんかしてね」いたずらっぽく笑いながらも、瞳は確信に満ちている。そんな板谷さんのおばあちゃん姿もまた、くっきりと目に浮かぶのだった。

※この記事は書籍『おしゃれコーチング』(講談社刊)から抜粋したものです。

 

<新刊紹介>
『自分のスタイルが見つかる おしゃれコーチング mi‐mollet BOOKS Vol.1』

ミモレ編集部 1500円(税別) 講談社

揺るぎない自分のスタイルがあると、とても生き易く、楽しい。でもそれを見つけるのは難しくて、日々トレンドや体型の変化などに振り回されてしまう…。スタイルのあるおしゃれな人になるには、どうしたらよいのか。ウェブマガジンとして、読者の悩みに寄り添い続けてきたからこそいきついた、ミモレならではのファッションブックを刊行。「紙のミモレが見たい」という読者の熱い声に応えた、待望の書籍第一号です。

【はじめに】白シャツとパール、そして私のスタイル
ミモレの大草直子編集長スタイリングにより、カジュアルからドレスアップまで白シャツのスタイルを見せます。
【第1章】インタビュー スタイルのある人ってどんな人?
・女優・板谷由夏さん
・「マディソンブルー」ディレクター中山まりこさん
・「ボンマジック」故・白井多恵子さん
・「CHICCA」ブランドクリエイター吉川康雄さん
【第2章】スタイルのある女性のリアルコーディネート
・熊倉正子さん
・ミモレ連載スタイリスト 田中雅美、斉藤美恵、福田麻琴、望月律子、室井由美子 スナップ&インタビュー
・おしゃれのヒントは街角にある!「SNAP!SNAP!」総集編
白シャツ、ジャケット、デニム、スニーカー、トレンチコートなど、流行に左右されないアイテム別に、ミモレのスナップの中から、人気のあったコーディネートを紹介します。
【第3章】コーチングシート(32P)
読者自身が書き込むコーチングシート。書き進めながら、最後には自分のスタイルのヒントを見つけられる内容。監修は人気スタイリストでミモレ編集長の大草直子。

構成/ミモレ編集部
撮影/YUJI TAKEUCHI(BALLPARK)
取材・文/河合映江
ヘア/宇津木剛(PARKS)
メイク/島田真理子(um)