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家庭でできる性教育「隠れたカリキュラム」とは?

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たった5年前と比べても、ずっと日常的に耳にするようになった「ジェンダー」や「セクシュアリティ」という言葉。でも実際にその意味をちゃんと分かっている人って、大人でもそれほど多いとは言えません。それってもしかしたら、私たちミモレ世代が、ちゃんとした「性教育」を受けていないからかも。

なんだか聞いただけでドキリとしてしまう「性教育」ですが、こんな時代に曖昧な知識のままではよくないんじゃないか――でも何から始めればいいのか、何のために学ばなきゃいけないのか、そして特に子どもを持つ親ならば、どんな顔をして教えればいいのか、悩みはつきないもの。

かといってネットに危ない情報があふれるこの時代、何もせずにいていいものか。親がやらなきゃいけないの?学校ではどんなことをしているの?何を言えばいいの?逆に何をしちゃいけないの?

そんな「性教育」にまつわるお話を、家庭での開かれた性教育を実践する小島慶子さんと、子どもたちに性の多様性を教える「生と性の授業」が話題の桐朋小学校の星野俊樹先生に伺いました。

実は「授業という形で教えられるのは、年間にせいぜい3〜4時間程度しかない」という星野先生が行うのは「隠れたカリキュラム」。家庭でもすぐに取り入れられるアイディアがいっぱいです。
 

小島慶子 1972年、オーストラリア生まれ。1995年にアナウンサーとしてTBSに入社。バラエティー、報道、ラジオなど多方面で活躍。1999年にはギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞受賞。2010年に退社後、タレント、エッセイストとして人気を博す。2014年からは、夫と息子たちが暮らすオーストラリアと日本を往復する生活。『解縛(げばく)—母の苦しみ、女の痛み—』(新潮社)、『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)、『幸せな結婚』(新潮社)、『さよなら!ハラスメント』(晶文社)など著書多数。

星野俊樹 桐朋小学校教諭。1977年兵庫県生まれ。2000年に慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、雑誌編集者として出版社に勤務する。働きながら通信課程で小学校教員免許を取得した後、東京都の教員として公立小学校に採用され、6年間勤務し退職。その後、京都大学大学院教育学研究科に進学し、2015年に修士課程を修了。同年、学園法人桐朋学園桐朋小学校の教員として着任。5〜6年の担任の時に行った「生と性の授業」がメディアでも紹介され大きな反響を呼んだ。「あの日の僕や君を救いたかった。『生と性』を小学生に教えた担任の2年間」(BuzzFeed)「あきらめずに火を灯し続けること。学校で多様性を伝えるほっしーの横顔」(Palette)「『自分の心に正直に生きる』ということ〜『生と性の授業』に込められた思い〜」(次世代価値コンソーシアム)

 


――まずは「隠れたカリキュラム」について教えてください。

星野:教育社会学の用語です。例えば、「時間厳守」を口にする先生自身が時間を守らないことってありますよね。そんな先生のあり方は、子どもたちに「時間は守らなくてもいい」「自分の言ったことに責任を持たなくていい」というメッセージを与えることになってしまうんです。ジェンダーを教える時もそれは同じです。日常の中で大人が、「男の子は泣くな」とか「女の子はおしとやかに」みたいなジェンダーバイアスを強化するような発言を無自覚にしていたら、性の多様性をいくら教えても説得力なんて全然ないですよね。きっとジェンダーに対する感度の高い子どもたちからすれば「お前が言うな!」という話だろうし(笑)。だから教員は普段から、子どもたちの言葉や振る舞いに一瞬垣間見えるジェンダーバイアスを見逃さずキャッチして、その都度正していかねばならないと思うんです。

――例えばどんな時に、どんなふうに正していけばいいでしょうか?

星野:例えば、前の学校で1年生を担任していた時に、おそらくテレビや映画の影響なのかもしれませんが、ある女の子が中指を立てるポーズをしたんです。たぶんその子は意味がわかっていなかった。でも何となく意味を知っている子もクラスにいて、学級内のちょっとした問題になりました。それで話し合いをすることになって、「中指を立てるのは“殺す”とか“くたばれ”っていう意味で暴力と同じ。絶対にやっちゃいけないことなんだよ」と話しました。そうしたらある男の子が「女の子はそういうポーズをやっちゃダメだよ」と言ったんですね。それを聞いたとき、「いやいやいや、それは違うだろう!」と私の中のスイッチが入ってしまった。私が「女の子だからダメなのかな?逆に男の子だったら中指立てても許されるってこと?」と聞き直したら、教室がシーン……と水を打ったように静まり返ってしまい(笑)。でも、子どもだからと許していいことではないので、「男の子とか女の子とか関係ないと思うよ。人としてやっちゃダメなことなんだよ」と伝えました。その男の子は半泣きになっちゃったので、その後フォローのために一緒にサッカーしたんですけど(笑)。つまり一事が万事、そういうことで。今みたいなことが起こった時に教員が本気で反応できるかどうかが大事なんです。

小島:そうやって子どもたちに「女は上品にするべきで、男は野蛮なくらいがいい」というジェンダーの押し付けに気付かせると同時に、いかなる形でも暴力は許されないとハッキリ伝えたんですね。とても大事なことですよね。
性的指向についても、大人の言葉が「ふつう」の刷り込みになるので、私は息子たちには「将来彼女ができた時に」ではなく、「好きな人ができた時」「パートナーができた時」と言うようにしているんです。男の子が好きになるのは女の子とは限らないので。

星野:そうそう、そういうことですよね。

小島:あとうちでは「人生ゲーム」をよくやるんですけど。あれって自動車の駒に、人物のピンを差していきますよね。女性がピンクで男性がブルーと決まってるのが問題は問題なんだけど、まあそれは置いといて。最初に息子に「ママ、男?女?どっちにする?」って聞かれて、男のピンを選ぶこともあります。途中「結婚する」というマスにつくと、息子が「どっちと結婚する?」って聞いてくる。そこで同性婚にすることもあるし、「子どもができる」というマスで「アダプト(養子をとる)するねー」と言うときもある。わざわざ膝詰めで「ジェンダーとは、家族の形とは」って言わなくても、そういうことでいいのかもしれません。

星野:大事なのは、常に我々大人が「隠れたカリキュラム」に対して意識的でいるということです。
 

 

「きのう何食べた?」を一緒に見るのも、性教育のきっかけに


――例えば「きのう何食べた?」のようなドラマを一緒に見て、きっかけにするのもいいかもしれないですね。

星野:そうそう。私のクラスの子じゃないんですが、高学年のある女の子で見ている子がいて、「『おっさんずラブ』の映画版、すごい楽しみだよね!」とか「先週の『きのう何食べた?』見た?」みたいな話で盛り上がるんです。ある時、その子が「ところで、ほっしーって結婚してるの?」「彼女はいるの?」って聞いてきたんです。その質問に対して、どう返答しようか言葉を濁しつつ考えていたら、「じゃあ彼氏?」って聞いてきたんですね。すごく驚いたのですが、私のパートナーが男性かもしれない可能性を考慮した上で、「じゃあ彼氏?」と質問をしてきたことに対しては満点をあげたいなと。

――自分と違う存在とか生き方を知ることで、お互いに嫌な気持ちにならないようなふるまい方がわかってくる、ということでしょうか。

小島:みんな人と違うんだよ。なのに、「人と違う」を理由にイジメられたり仲間外れにされたら嫌だよね。人と自分が違っていてもびっくりしないために、どんな違いがあるのか、違うと思った時にどう行動すればいいか知っておこうね――というのも性教育のひとつの側面です。親はつい、子どもに性やジェンダーの話をすることを、パンドラの箱を開けるかのように思ってしまう。誰の人生にもありえる疎外感や孤独感、そこからくる生きづらさに対する備えということで言えば、別にそんなに特殊な教育じゃないんですけれど。

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