発する言葉を頭の中でイメージできているかどうか


発達障害では言葉の遅れが多い。そのため言葉の遅れは、児童精神科への受診理由としては一番多い問題だ。ただしここで注意しなければならないことがある。それは、言葉の発達にはすごく個人差がある、ということだ。
児童精神科医は、話し言葉が遅いことよりも、言葉の理解がどうかということを特にチェックする。こちらの言うことが分かっていても、話し言葉が出てこない子供はおおむね1割ぐらいいるので、それほど心配はいらない。

そうは言っても、言葉が遅いと多くの親は心配になるだろう。注意すべきパターンは2つある。
1つは、言葉はやがて出てきて、その後の言葉の発達は伸びていくのに社会的な行動がめちゃくちゃ苦手な子供たち。
2つ目は、言葉だけでなく、発達全体が遅れている子供たち。

 
 

この両者ともにいつも私がアドバイスすることは、コミュニケーションの基盤となるものを大切に育てていくということだ。それはひと言で言うと、頭の中でイメージを作る能力である。
たとえば真似をするときも、頭の中にその動作のイメージを作らないと真似はできない。保育園でやっていたダンスの真似を家でしてみせるといった行動は“後模倣”と呼ばれ、幼児がよくおこなうが。これはまさに頭の中でイメージを作りながら動いているわけである。
また、何かを見てその状況を理解することも同様だ。母親が買い物かごを持つと買い物に行くのが分かったり、「◯◯を持ってきて」と言われて持って来られるのは、頭の中でちゃんとイメージができているということである。

子供は言葉によって世界を理解し、把握をしていく。だから言葉を真似て声を出すことができることよりも、それが頭の中でイメージと結びついているかどうかが問題なのだ。先に述べた注意すべき2パターンの1つに、言葉の発達は伸びていくのに社会的な行動がめちゃくちゃ苦手というのは、言葉が頭の中でイメージと結びついていないからだ。
一方で、言葉足らずに「ミ」と声を発しても、それが「ミルク」だというイメージの裏付けがあれば、それほど心配はいらないだろう。


トイレトレーニングの際に心がけるべきこととは?


次に「食事やトイレ、服の脱ぎ着といった、身の回りのことが自分でできるようになる課題」だが、これは時代の流行り廃りがある。
あくまで研究結果ではあるが、トイレトレーニングは早く始めると何と10ヵ月くらいでもできることが分かっている。しかし今は紙おむつが主流で、昔のように布おむつで洗濯が大変ということもない。それゆえ最近は、無理して早くから練習しなくても良いのではないかという考えが主流で、3歳前後からゆっくりやれば良いという人が増えている。

ただし何歳で始めたとしても、上手くやれた時はしっかり褒めて、失敗しても𠮟らない、ということが大切だ。これはすべての躾に共通していることである。
失敗したときに𠮟られるとなると、最初は上手くできないことが多いであろうから、トイレの度に𠮟られることになってしまう。そうすると当然、子供はトイレを嫌がるようになり、悪循環になってしまう。
身辺自立の課題については、個人差があるので子供に合わせてゆっくりとやっていただきたい。

 

『子育てで一番大切なこと』
杉山登志郎著 講談社現代新書 ¥924


発達障害の子どもたち』『発達障害のいま』などの著書を持つ児童精神科医の杉山登志郎医師が、発達障害や不登校、虐待にはあまり関心のない普通の読者が読めるようにと書いた子育て本。編集者との対話形式で綴られているので、専門的な内容も非常に分かりやすい。子育ての基本を、妊娠時期から乳幼児期、小学生時期と、時期別に分析。また見逃されがちな発達障害、そして子育てにおける課題などについても解説している。

文/山本奈緒子
構成/山崎恵
この記事は2019年9月2日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。

 

・第1回『子どもの発達障害の権威が語る「3歳までの愛着形成」の大切さ』はこちら>>
・第2回『社会性の基となる「愛着形成」4つのパターン【子どもの発達障害の権威が解説】』はこちら>>
・第4回『子どもの発達障害の権威が教える、乳幼児期のしつけで大切なこと』はこちら>>

・第5回『日本の学校制度が発達障害の子を苦しめる【児童精神医学の権威が今伝えたいこと】』は9月8日(日)公開予定
・第6回『日本にビル・ゲイツは育たない。発達障害の権威が指摘する“全体主義教育”の罪』は9月11日(水)公開予定

 
  • 1
  • 2