一方日本は、知的に高い子もみなと一緒にゆっくり学ばなければならない。しかも才能児の場合、能力の非常に高い面を持つのと同時に、低い面を持っている子が多い。児童精神科医から見ると、このような子の大多数はASDなのである。そうすると、伸ばすところと埋めるところの両方の支援が必要になる。
こうしたギフテッドの才能を伸ばしていくことは、国家的にはとても大事なことだ。アスペルガー症候群を持っていたと言われているビル・ゲイツが、アメリカにどれくらいの利益をもたらしたか考えてみるといいだろう。

 
 

そしてそれ以上に、ギフテッドの特別支援教育が日本にも入ってきてほしい理由がある。それは、特別支援教育そのもののイメージが変わると思うからだ。ギフテッドを受け入れることで、特別支援教育が通常教育より下のもののように受け止められる今の状況が一変するのではないだろうか。
 

高学年までは子供たちに個別に対応すべき


以前にインドの小学校で、日本式の運動会がおこなわれたことがある。その際、皆が一斉にジャンプする“大縄跳び”が、どのクラスも一回も跳べなかったのだ。
これを聞いて、あなたは驚くだろうか? どのクラスも何回も跳べてしまう日本の小学生のほうがおかしいと、私は思う。少なくとも世界基準ではインドのほうが普通だろう。日本の学校は、いまだにみんな一緒に同じことを学んでいくという全体主義から抜け出せないでいるのだ。

今の日本の学習カリキュラムは、小学校中学年で大きく飛躍する。となると、これまでの全体主義的なやり方だと、ハンディキャップのある子はここでハードルに引っかかってしまうわけだ。自立に必要な最低限の学力は、だいたい小学校中学年までと言われている。だからこそ高学年に入る前の時期には、子供に合わせて個別に対応可能なシステムできちんと教育することが、成果を出す近道だと考えている。
しかも個別対応が必要な子供たちは、これから増えることはあっても、減ることはない。日本の学校はこれまで子供たちに無理をさせてきた。そろそろ無理をやめるべきではないだろうか。
幸福な子供時代の記憶は、間違いなく一生の宝になる。だからこそ子供たちには、楽しい充実した学校時代を過ごしてほしいと切に願っているのである。
 

 

『子育てで一番大切なこと』
杉山登志郎著 講談社現代新書 ¥840


発達障害の子どもたち』『発達障害のいま』などの著書を持つ児童精神科医の杉山登志郎医師が、発達障害や不登校、虐待にはあまり関心のない普通の読者が読めるようにと書いた子育て本。編集者との対話形式で綴られているので、専門的な内容も非常に分かりやすい。子育ての基本を、妊娠時期から乳幼児期、小学生時期と、時期別に分析。また見逃されがちな発達障害、そして子育てにおける課題などについても解説している。

文/山本奈緒子
構成/山崎恵

 

・第1回『子どもの発達障害の権威が語る「3歳までの愛着形成」の大切さ』はこちら>>
・第2回『社会性の基となる「愛着形成」4つのパターン【子どもの発達障害の権威が解説】』はこちら>>
・第3回『子どもの発達障害を疑う時、言葉の遅れよりも注意したいこと』はこちら>>
・第4回『子どもの発達障害の権威が教える、乳幼児期のしつけで大切なこと』はこちら>>
・第5回『日本の学校制度が発達障害の子を苦しめる。児童精神医学の権威が今伝えたいこと』はこちら>>

 
  • 1
  • 2