おいおい、そこまで私はババアになったのか。
しかも 私は 鉄子でもない。ただ状景として覚えているだけ。
あの光景は子供ながらにとても大人っぽく感じていた。
豆電球ランプになるときの、あの車内の暗さ。なぜかそのとき、ピーとうっすら聞こえる電気音。
しかもなんで一瞬豆電球だて点灯するのかもわからなかった。大人に感じる、不思議な瞬間だった。
色気さえある雰囲気を子供ながらに感じていた。
小学生くらいだったから、だれか大人と地下鉄は乗っていた。だからこそ余計、大人になったらこの空間に来てみたいと憧れを高めていた。
思えば、電車のアナウンスも、かつては車掌さんの独特なしゃがれた生アナウンスであった。
どこかそこに風情もあった。
赤坂見附に着き、丸の内線に乗り換える。
ホーム向かい側の荻窪方面に乗る。
奥平くんは、自分の出身話がふくらむのがイヤだったのか、ただ単に興味がなかったのか、あまりこの話題にのってこなかった。
パーン……! いきなり晴れわたる景色。
地下鉄でありながら、外に出る開放感。四ッ谷駅へ滑らかに走行する。
速度は変わっていないのに、ゆっくり走っているように感じる。
どこかゆとりさえ感じてしまう。上智大学の土手が見える。
会社に帰るだけだったから、久々にあの幼稚園を見てみようかとフト思った。
「じゃあ、ちょっとここで降りるわ」
「あれ? はい?」
「先行っててください。ちょっと寄り道して帰りますから」
ピンポン、ピンポンときれいな音が鳴ってドアが開く。
私はすがすがしさ溢れる外に出た。
幼稚園はいまはもうない。現在は教会だけである。
侍者室の近くをのぞいてみると、いまも自販機は置かれているものの、もちろん、瓶のコーラは扱っていなかった。
自動販売機は最新型で、ジュースを選ぶところが、すべて映像になっていた。
「……」
もし今 子どもだったら、これが憧れになるのだろうか。
Suicaやマネーカードをかざせば、ジュースが買える時代。
大人が、遠い存在に見えていたように思う。
あこがれと相まって。
王冠はもちろん落ちてはいない。
壁に打ち付けられた栓抜きもない。
憧れはあこがれのまま、遠くに存在しながら、どこかそのうれしさと、ざわめく想いを感じてならなかった。
自販機横の紫陽花は 昔のまま変わらずきれいに咲いていた。――――
終
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*この物語はフィクションです。 *禁無断転載
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