コピーライター梅田悟司さんの『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』を拝読しました。この本、家事にまつわる「あるある」を面白おかしくコピーにして、ヤマサキミノリさんの笑える漫画とともにカルタのようにめくっていける本です。あまりの「あるある」に思わず吹き出した箇所もいくつか……。家事の負担感をなくすワンポイントアドバイスも載っていて、頷きながら読みました。

 

「名もなき家事」というのは、夫婦に家事分担を聞いたところ、妻の負担感と夫のやっている感の間に大きなずれがあることから2017年に大和ハウス工業がキャンペーンで使い始めたものです。

 

同社は特設サイトでどんな「名もなき家事」をやっているかを募集し、投票によりランキング化しています。1位に「裏返しに脱いだ衣類・丸まったままの靴下をひっくり返す作業」、2位に「玄関で脱ぎっぱなしの靴の片づけ・下駄箱へ入れる/靴を揃える」などがあげられています。

梅田さんの本では特に笑えるものを取り上げている節があるので、逆に「あるある」がわからない人には面白さがわからない上に負担感もいまいち伝わらないのではないかという懸念もありますが、こういう積み重ねが「やれやれ」なんだよね、と見える化していることに価値がある本だと思いました。

「名もなき家事」をもう一歩進めた議論に、「sentient activity」という概念があります。社会学者の平山亮さんが『介護する息子たち』などで紹介していますが、これはイギリスの社会学者ジェニファー・メイソンが1990年代の半ばに提案した概念で、ケアが成り立つために必要な「感知すること」「思考すること」といった営為のことを指します。

適切な日本語がなく浸透するのは難しそうな概念ではあるのですが、ケアする相手の状態・状況をよく見て、何が必要かを見定めること、その前提としてそもそもどのような人物で何を好み、何を好まないかを理解すること、社会関係について思慮することなどが含まれるといいます。

日常的に家事・育児をしている主婦は、献立を考える、冷蔵庫の中身を把握しておくといった家事の前提となるような「名もなき家事」に加え、たとえば子どもの食事を用意するときに子どもの状況や好み、次の日以降いつ買い物に行けるかといった感覚的なマネジメントもしているというわけです。

 
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