酒井順子さんによる書き下ろし連載。今回のテーマは“独身”。『負け犬の遠吠え』から16年経った今もまだ独身の酒井さんですが、一緒に暮らしているお相手はいて……。家族、パートナーのあり方や考え方も『負け犬』が出た頃とは変わってきている今、改めて“結婚”について思うこととは。

 
 


「楽しく充実した独身生活アピール」という誤読


独身女性達の思いを込めた『負け犬の遠吠え』という本を書き始めたのは、私が35歳の頃。本が出た後、年上で独身の女性に、
「30代なんて、犬でいられるだけ全然マシ。40代になったら、ゴミみたいなものよ」
と言われたことがありました。

その時は、「何を大げさな。30代も40代も、そう変わらないでしょうよ」と思っていたのですが、後になって考えると、その言葉の意味がわかる気がします。40代がゴミとまでは思わないにせよ、30代の独身というのは、まだまだ若かった。自然妊娠の可能性も高かったし、体力もあった。30代であるが故の悩みも深かったものの、ジタバタしようがあった、と言いましょうか。

あの本は当時、「私達はこんなに楽しく充実した独身生活を送っているのだから、結婚などしなくてもいいのだ」というアピールだと誤読されがちでした。しかしそれは私の意図とは全く違っていたのであり、私は昔も今も、「お相手はいた方がいい」という主義。だからこそ真剣に、“負け犬感”を抱いていたのです。

昔も今も、私は自分の身近にいる独身者には、せっせと婚活を勧めています。最近は、ポリティカルなんとかに引っかかるのか、幸せな結婚生活を送っている人が、
「結婚っていいわよぅ。あなたもすればいいのに」
と独身者には言いづらくなってきました。
「人それぞれなんだから、そのままでもいいんじゃない?」
と優しいことを言う人ばかりになってきたわけですが、しかし全ての外圧が無くなってしまったら、日本の人口はますますジリ貧です。

その点、私のような者からであれば、婚活もまだ勧めやすいというもの。『負け犬』のエピソードに登場した友人達も、その後、頑張ってお見合いやらマッチングサービスやらにトライした結果、皆さん結婚と相成ったのです。


「ご主人」とも「彼氏」とも呼べない周囲の戸惑い


では自分はどうなのかといえば、さんざジタバタともがいた末、30代の末期から続く相手とは結婚はしていないものの同居生活を送っているという状態。それを「事実婚」と言うのか「内縁関係」と言うのか、はたまた「同棲」と言うのかわかりませんが、まぁどれでもいいと思っています。

周囲の人は、そんな50代男女をどう取り扱っていいか、困っているでしょう。私が「ウチの者」とか「ウチの男」などと言っている相手のことを、「ダンナさん」と言う人もいれば「ご主人」「彼氏」と言う人もいます。50を過ぎて「彼氏」と言われるのも恥ずかしいというか申し訳ないのですが、しかし周囲の人々としても戸惑いがあるのだと思う。

私は、周囲の人に戸惑いを感じていただくのも、自分の一つの役割なのかも、と思っているのでした。男女が結婚して子をなして、という従来型の家族だけが家族とは限らなくなっている、今。既存の家族に当てはまらない、変な存在感の人がいることを知っていただく一助とはなるのではないでしょうか。

結婚というハードルがあまりに高いからこそ、飛び越える気が萎えて立ちすくんでいる人も多い中で、「別に結婚をせずとも、『お相手』づくりはできるのでは?」というご提案感覚を、私は持っています。「いい年をして結婚していないカップル」がいてもいいんじゃないの、と。

 
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