昨年、インフルエンザに罹患した会社員が出社し、出勤途中の地下鉄のホームから転落死するという痛ましい事故がありました。インフルエンザに罹患した状態で出社しても仕事になりませんし、何より周囲に感染を拡大させますから、患者を出社させることにはデメリットしかありません。それにもかかわらず、出社を事実上、強要される職場が少なくないというのが現実です。

 

ここ数年、インフルエンザの予防接種をする人が増えており、一定の効果を上げていますが、これについても過信は禁物です。予防接種は確かに一定の効果がありますが、どちらかというと重症化を防ぐためのものであり、予防接種によって罹患そのものを絶対的に防げるわけではありません。

 

昨年も、予防接種を受けていたにもかかわらず罹患してしまった著名人がたくさんいましたから、やはり予防接種はあくまでも対策のひとつに過ぎないとの認識が必要でしょう。一部の地域や職場では、予防接種を絶対視してしまい、接種を受けなかった人を集団で批判するという事態も発生していたそうです。ここまでくると、もはやカルト的な話になってしまいますから、絶対にあってはならないでしょう。

一連の状況を総合的に考えると、実はインフルエンザの予防と職場における働き方改革の推進はかなりの部分で一致していることが分かります。

働き方改革で生活にゆとりが出れば、そもそも感染しにくくなりますし、全員が同じ時間に出社しなければ、通勤電車の混雑も緩和され、当然ながら社内での感染確率も下がるでしょう。働き方改革を推進するには、職場の高度なIT化が不可欠ですが、ITを積極的に導入していれば、必然的にペーパーレスになるので、ウイルスの温床である紙を触ったり、ファックスやコピー機を操作する回数も減ります。

仕事の役割分担と責任の所在をしっかりしていれば、誰かがインフルエンザでダウンした場合も、無理に出社が強要されることはありませんし、別の人がその仕事をカバーできるはずです。

はっきりとした統計がないので、確実な事は言えませんが、職場のIT化や働き方改革の違いによって、実はインフルエンザなどの罹患率に大きな差が出ている可能性も否定できません。働き方改革と社員の健康というのは、完全にリンクした問題であるとの認識を社会全体で共有していくことが重要でしょう。

前回記事「大学入試の民間英語試験、導入から見送りまでの不可解な経緯」はこちら>>

 
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