2019年、長期連載していた『VERY』(9年間)と『日経DUAL』(6年間)でのコラムが終了。「小さいお子さんを持つ子育て世代への話は書き尽くしたかな」と語る小島さんは、新たなフェーズに向かっているように見えます。現在、二人の息子さんは高校2年生と中学2年生。もしかしてそろそろ、子育て後の人生も考えていますか?

 

「子どもたちがもし大学院までいってマスター(修士号)を取りたいと言ったら、下の子が今14歳ですから、あと10年は学費を稼がないといけない。今のところは私の人生、すべての基準は学費ファーストですよ。何をするときにも、『これで●円のギャラが入るということはすなわち、学費がいくら増える!』って、頭の中に学費が詰まってる状態。そんなんだから、子育て後の人生なにしようなんて考えたこともなかったなあ。
でもそんな学費ファースト人生をひた走り、それから解放された時には消費行動が激変して、『VOGUE』に載ってるハイブランドの服とか買いまくりたくなっちゃったりするのかなあ(笑)。今は想像できないですね」

子育て完了後のライフスタイルについて考えたこともないと語る小島さんだが、夫婦関係については、子どもたちが巣立った後「白紙」にすることが決まっている。


法的に彼の妻であることが負担でしかたなかった


前述の産後クライシス中の夫の裏切りに端を発し(詳しくは本書『続・ミッドライフ・クライシス 妻の怒り、夫の戸惑い』など)、小島さんは悩み抜いた結果、「エア離婚」の合意を夫から得たばかりだという。

「卒婚って言葉がなんとなくしっくりこなくて、“エア離婚”ってワードは私が考えました。
夫とは子育てユニットとしては最高なんです。子供もお父さんのことが大好きだしね。でも、15年くらい前に彼のしたことに対して、どうしても納得がいかなかったんです。そんな傷を抱えたまま子育て後に彼と向き合えるかどうかもわからない。法的に彼の妻であり続けるということが相当な心理的負担になっていました。
だったら2人の間だけでも、“子育て完了後には離婚する”という合意が成立している状態を作れないかと、実は数年前から夫に相談していたんです。
夫にはのらりくらりとかわされ続け、一年前、ようやく首を縦に振ってくれました」

 

小島さん自身エア離婚成立後に健やかさを取り戻したことから、家族というかたちについても自然と考え方が変わっていった。

「驚くほど気持ちが楽になりました。私は夫と一生を添い遂げなくてもいいんだ、いつでも離婚できるんだってなった途端、すごく心が軽くなったんです。人って、一生を共にする相手に対して複雑な気持ちを抱えたまま生活すると、とてつもなく重荷になるんですね。
エア離婚成立後、夫も随分変わりました。それまではオーストラリアに移住にしたのになかなか次のステージに行こうとしなかったんですけど、今は語学勉強して資格を取ろうと頑張っています。
法律上の婚姻関係が重しになって憎み合ったり苦しい思いをするよりも、相手との間でもっとも健全な関係が築けるよう、“かたち”を変えていくのが結果としてはいいのかなって思うようになりました。せっかく縁あって出会った相手ですからね」

パッチワーク家族やステップファミリーという言葉も耳にするように、家族全員が心地よくいられる関係性を模索し、それぞれの「オリジナル」を作ればいい――。小島さんのお話を聞いてそんな風に思えたのでした。
そして蛇足とは思いつつ、エア離婚成立後、恋に目が向くことはありますか? とお聞きすると、小島さんらしい答えが返ってきました。

「脳内の“恋愛回路”が死んじゃって、そこのシナプスがやられているんだよねえ。だから、恋愛映画のキスシーンとか見ても「ふ~ん………」(無表情)ってなっちゃって、“キュン死”ができないという……。それでも脳って失われた機能を他の部分がリカバーするっていうから、いい出会いがあれば回復するのかな。まあ、どのみちまた最初から関係を始めるのも面倒だし、老後は女同士で一緒に住む方がいいかもなあ」

 

『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』
著者:小島慶子(日経BP社/税抜1400円)


朝は保育園までママチャリを爆走させ、仕事でヘトヘトになって帰ってきた後は、一刻も早く寝てくれと祈念しながら子供と一緒に寝落ち……。そんな仕事と育児でいっぱいいっぱいの全・共働き夫婦に読んでほしい、小島慶子さんからの知恵とエールが詰まった珠玉のエッセイ集。

取材・構成/小泉なつみ 撮影/稲垣純也
 
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