歯科治療にまつわる患者さんの不満としてよく聞かれるのが、「治療期間が長過ぎる」という声です。治療期間の長さは歯の状態にもよるので、状態が悪い場合は長期になってしまうことは確かにあるのですが、実際は歯科医の側の勝手な都合で、診療報酬を稼ぎたいがために、無駄に何度も来院させているケースもあるのです。
私のところにも、「他の歯医者に通っていますが、歯の神経の治療をもう6ヶ月も繰り返しているのです。本当に半年以上も時間がかかるものでしょうか」という相談に来られた患者さんがいました。
私がその歯を見てみると、特に痛みなどの症状はないのです。治療期間が長いということは、当然仮詰めの期間も長くなってしまうわけです。そうなると、歯の内部への口腔内細菌の再感染のリスクも高まることになります。私だったら、もちろんそんな危険な治療はしません。


「診察時間が長い」はいい医者の可能性大


結局、その患者さんは当院で早々に神経の治療を終わらせて、詰め物を入れました。当院への通院は3回で終了です。本来はそれで終わらせることができるはずです。そもそも、1本の歯を治療するのに、週1回ほどの通院頻度で数ヶ月もかかるなどという事例はほとんどありません。しかし、「何ヶ月も歯医者に通い続けている」という話は珍しくないようです。やはり、通院回数をむやみに伸ばすような歯医者は疑ってかかったほうがいいでしょう。
ただし、「治療期間が長い」歯医者はダメでも、「診療時間が長い」歯医者は、むしろ「いい歯医者」である可能性が高いことにご注意を。特に「初回の診療時間が長い」歯医者は、ほぼ例外なくいい歯医者といっていいでしょう。
なぜなら、最初に診断を間違えると、歯の状態を改善させることが困難になるからです。正しい診断をすることが第一で、そのためには患者さんの話をよく聞くことが一番。だから、私も初回は時間をかけてしっかり診断するようにしています。
場合によっては、初診時は質疑応答に終始し、カウンセリングだけで終わってしまうこともあります。そこまでするのは、正しい治療を行うためには初回の診断がとても重要だという信念を持っているからです。
「初回なのに、根掘り葉掘り聞かれて疲れた」とか、「話ばかりで、ほとんど治療をしてくれなかった」などと思わずに。その歯医者はきっと「アタリ」なのですから。

 

『現役歯科医が警鐘 こんな歯医者に行ってはいけない』
著者:今枝誠二(講談社/税込1100円)


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構成/小泉なつみ
この記事は2020年1月15日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。

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