「新しい外国語を始めたい方、英語をもう一度やり直したい、しかしこれまで何度も失敗してきたビジネスパーソンの方、どうか私を信じて以下のやり方で学習を愚直に進めてください。
まずは、外国語学習にあたっての私の基本的な考え方から説明します。
“日本語ファースト”。まず、日本語で話す内容を考え、それから外国語に“置き換え”ましょう」

 

外交官として、アラビア語と英語を海外研修中のわずか3年の間にマスターしなければならない状況に追い込まれた中川さんは、「とにかく話せるようにならなければ」と、すべての学習のゴールを「話すこと」に設定します。
その際、まず「日本語」で何を話すのか(アウトプット)を考え、それと同じ意味を持つ外国語の単語や表現を探してインプットし、直ちにそれをアウトプットする「日本語ファースト」という勉強法を編み出したのです。

学校で外国語を習う場合、「何を話したいか」について考えることはなく、与えられた文法や英文をとにかくインプットすることから始めるのが普通だったと思います。
しかし、このようなアウトプットを前提としないリーディングやリスニングなどインプット中心の学習法は、自己満足だけの使えない外国語で終わってしまうといいます。

 

「ネイティブ脳」神話は捨てる


中川さんが「日本語ファースト」を訴える一方で、長く外国語学習において呪いのごとく言われてきたのが、「外国語を話すには外国で考えろ」という教えです。
しかし、中川さんはこの定説に関してもきっぱりと「必要なし」と断言しています。

「たしかに、この考え方は、その人の母語が決まると言われている12歳ごろまでならトライする価値があるかもしれません。
しかし、母語が日本語に決まった後の日本人が、なぜ、わざわざ母語を変えようとするようなやり方を選ぶ必要があるのでしょうか。
それは、日本人が外国語というものを難しく考え過ぎているからだと思います。
私は24歳からアラビア語を始め、4年8ヵ月で外交交渉の通訳まで務めることができました。
アラビア語の“ネイティブ脳”があろうはずもありません」

十年以上も勉強し、日常でも接する機会の多い英語の場合、若干理解できるゆえに「ネイティブ脳」神話に陥りやすいですが、この話をアラビア語に置き換えた途端、「確かにそうだ……!」と唸ってしまいました。
そこで、中川さんはひたすら「日本語からアラビア語への“置き換え”、“日本語脳”の強化の訓練を徹底的に」やったそうです。
そして、結果としてそれが、外国語を最短距離で習得する道であることに気づいたのです。


2020年度からアクティブ・ラーニングも本格導入されますが、これまでの語学学習は座学で、受け身で、口で発するより読むこと中心にやってきた人が多いと思います。
しかし、中川さんの勉強法は、自分が話したいことを日本語で先に考え、それを話すために必要な外国語をインプットし、インプットしたらすぐに話してアウトプットするという、これまでの勉強法とは反対のことばかりでした。

ぜひ東京五輪前に、中川さん流の新たな勉強法をスタートしてみてはいかがでしょうか。

 

『総理通訳の外国語勉強法』
著者:中川浩一 (講談社現代新書/税抜840円)


24歳で世界一難しい言語「アラビア語」を学びはじめ、天皇通訳、総理通訳まで務めた外交官による新しい外国語勉強法指南。「通訳」という仕事の裏側や醍醐味も知れる一冊です。

 


構成/小泉なつみ