「さらに衝撃的なことに、この難しい課題での自分の成績をみんなの前で発表させたところ、『頭がいい』と褒められたグループ1の子どもの約40%が、本当の自分の成績より良い点数を報告したのです。つまり、グループ1の4割の子どもが自分を良く見せようとしてウソをついたということです。
ちなみに、何も言われなかったグループ3では、ウソをついた子どもの割合は約10%でした」

褒められた子どもたちは難しい問題を避けるばかりか、「頭がいい」という自分の評判を落とすことを恐れ、ウソをつくことも厭わなくなる可能性が高い……。
この実験結果が「褒めて育てる」ことへの警鐘であることは間違いないでしょう。


優秀な人による“捏造”“改竄”


さらに中野先生は、実験者のミューラーとデュエックによるグループ1の子どもたちへの見解を次のように教えてくれました。

◎「頭がいい」と褒められた子どもは、自分は頑張らなくてもよくできるはずだと思うようになり、必要な努力をしようとしなくなる。

◎「本当の自分は『頭がいい』わけではないが、周囲には『頭がいい』と思わせなければならない」と思い込む。

◎「頭がいい」という評価から得られるメリットを維持するため、ウソをつくことに抵抗がなくなる。

「この研究のことを思うとき、ふと、『頭がいい』という褒め言葉に直接的にも間接的にもさらされ続ける環境で教育を受けてきた『優秀』な子どもたちは、日本で今、どのようなポジションについているのだろうかと考え込んでしまいます。
“捏造”“改竄”“記録の紛失”“記憶違い”が頻発するように見える昨今ですが、これらは しばしば安直に指摘されるような、劣化、などという現象ではないのかもしれません。
たとえばもしかしたら、捏造をしたとして多くの人の口の端に上った科学者も、周囲から、『すごいね』『頭がいいね』と褒められ続け、そんなふうに育ってしまっただけなのかもしれないのです」