そんな私の苦労を尻目に、息子は希望していた理系の大学院までいき、様々なことを身に着けていきました。おかげで今は建築関係の仕事をしています。

窪さんは昨年末、『トリニティ』(新潮社)で第36回織田作之助賞を受賞。しかし新型コロナウィルスの影響で授賞式は延期に。その時に着る予定だったという春らしいコーディネートで。

息子のお世話から解放されたばかりの頃は、「自由だーーーーっ!」って叫びたいくらい嬉しかったのと同時に息子ロスにもなって、一年くらいは飲み歩いていました(笑)。
今54歳ですから、60歳まで小説を書いているイメージはつくんです。でも、70までとなると「……?」ですね。
だから最近は息子に会う度、冗談半分に「二世帯住宅とか建てる気ない? 私、6畳だけもらえればいいから」って言ってます(笑)。

 

――とても溌剌とされていて健やかな窪さん。元気の源はなんですか。

私は運動が苦手で、人生でマタニティスイミングくらいしかスポーツをやったことがなかったんですけど、最近は加圧トレーニングを一週間に一度やっています。
座り仕事なので体幹が弱く、腹筋も全然なくて、行く前は憂鬱になるくらいキツいです。でも、トレーニングをしてくれる先生と「今、腸腰筋(ちょうようきん)が動いてるから!」「ええっ、腸腰筋ってどこですか!?」とか言い合いながら鍛えていると、無の境地になれるんです。
今の時代、なにも考えない時間を持つことってかなり難しいと思うんです。別に筋トレじゃなくも、書道でも縫い物でもいいので、無になれるような、禅に近い瞬間を持てたらいんじゃないかなって思います。
 

 

『たおやかに輪をえがいて』
著者:窪美澄(中央公論社/税抜1650円)


結婚20年になる夫と娘と穏やかに暮らしていた専業主婦の絵里子。このままつつがなく人生を終えていくつもりだったはずが、夫の風俗通いを知ってしまった上、娘が危険な恋愛をしていることも発覚。悩みの中にいた絵里子の前に、整形した旧友が現れて……。誰かの世話に明け暮れてきた女性が、過去を振り返り、幾度も逡巡しながら自分の道を探していく様に惹き込まれます。


構成/小泉なつみ