「学習→即睡眠」の驚くべき効果


学習のあとに睡眠・休息をとることが、学習効率を上げるのに一役買っている、という研究をどこかで読んだことがある人も多いかもしれません。実際、未知の新しい単語を覚えさせるのに、学習直後に睡眠をとらせた群とそうでない群とでは、テストの成績が変わってしまいます(成績が良かったのは睡眠をとらせた群)。

人間だけでなく、動物実験でも同様の効果が認められています。ラットを2グループに分けて迷路に放り込み、その後睡眠をとらせるグループととらせないグループに分けます。すると、とらせたグループのほうがより迷路の道順を覚えているのです。

学習後に睡眠をとることで、神経回路そのものにはどんな変化があるのでしょうか?
神経細胞はシナプスと呼ばれる接合部位で、別の神経細胞に接続されています。ただ、それで神経細胞同士は直に接着しているのではなく、1ミクロンにも満たないほどのごくわずかな隙間を介して連絡していて、この隙間はシナプス間隙(かんげき)と呼ばれています。

神経細胞の長い脚(軸索)を伝わってきた電気信号は、このシナプス間隙を飛び越えることができません。シナプス間隙を越えて情報が伝わっていくのに、神経伝達物質が使われます(一部、化学物質を使わないシナプス〈電気シナプス〉もありますが、説明を簡単にするためにここでは電気シナプスの説明は省略します)。

さて、シナプスで接続された神経細胞同士を同時に刺激すると、ふたつの神経細胞間の信号伝達が持続的に向上するという現象が起きることがあります。これをシナプスの長期増強 (Long Term Potentiation 、LTP)と言い、脳における記憶・学習の重要な過程であると考えられています。

迷路を走らせたラットの脳を見てみると、1日睡眠を奪われたラットは、自由に眠らせてもらえたラットに比べて、LTPの度合いが低くなっていました。つまり、睡眠をとらないと、記憶・学習ができにくくなることが神経回路レベルで示された、ということになるでしょう。

睡眠研究の第一人者であるブラウン大学のササキによれば、ピアノの運指を練習したあとすぐに睡眠をとらせる被験者と2時間後に睡眠をとらせる被験者に分けると、すぐに睡眠をとらせた被験者のほうがより早く正確に弾けるようになったといいます。さらに、睡眠時にも脳が活発に活動しており、睡眠が学習に重要な役割を果たしていることが明らかにされました。

睡眠を充分にとることができなくても、植物園における数十分の散歩が良い効果をもたらす可能性が示唆されています。植物園を散歩させる群と、交通量の多い通りを散歩させる群に分け、認知テストの成績をその前後で比較すると、植物園を散歩させたほうでは成績が向上していたそうです。